飼養管理レポート

 
私たち酪農総合研究所は、雪印メグミルクグループの掲げる3つの使命を果たすために、「酪農生産への貢献」の一翼を担う活動に取組んでいます。

特に、酪農産業に関る幅広い分野の科学的・実践的調査研究とその成果の普及を通して、わが国酪農の発展と食糧の安定的需給に寄与してまいります。

2019年6月10日月曜日

2018年度 酪総研シンポジウム 意見交換要旨

雪印メグミルク株式会社酪農総合研究所は2019年1月31日、酪総研シンポジウム「酪農現場の“カイゼン”を考えるⅢ -少額投資で生産性の向上を!-」を開催しました。


前回までその講演要旨を掲載してきましたが、今回は講演内容をもとにおこなった意見交換の要旨を掲載します。

第一講演要旨…牛の行動を基に施設や飼養管理を見直す~人も牛も幸せに~
第二講演要旨…酪農における光環境制御の効果とそのメカニズム
第三講演要旨…カイゼンの道しるべ「乳検データ」の活かし方を考える

【意見交換 壇上者】
第一演者…酪農学園大学 農食環境学群 家畜管理・行動学研究室
     教 授 森田 茂 氏
第二演者…農研機構 畜産研究部門 畜産環境研究領域 飼育環境ユニット
     上級研究員 粕谷 悦子 氏
第三演者…公益社団法人 北海道酪農検定検査協会 乳牛検定部 検定課
     課 長 佐坂 俊弘 氏
座 長 …雪印メグミルク株式会社 酪農総合研究所
     担当部長 佐々木 理順
     課 長  野﨑 則彦

座長:
それでは意見交換を始めます。
当シンポジウムは、一昨年から「酪農現場のカイゼンを考える」という大テーマのもと、生乳生産現場のロスを発見し、その対策を講じることで経営改善を図ることを目的として開催している。カイゼンシリーズ第3回目となる今回のテーマは『少額投資で生産性の向上を!』とした。
今日、本テーマに対し3題ご講演を頂いたが、一言で表せば乳牛の行動や生理を理解し、飼養環境を整え、適切なモニタリングと得られたデータの活用を高め、さらにそのデータ活用の面的拡大を図る、これが少額投資で生産性を上げる基本的手法の一つではないかと考えた。そのベクトルを我々が適切かつ明確に共有することが重要であり、これにより理論に裏打ちされた技術が現場での効率的な実践と波及につながるものと考える。
これらについてさらに理解を深め、皆様の今後の飼養管理・経営管理の向上への一助として頂くことを目的に、ご参加いただいた皆様との意見交換を進めたい。
限られた時間ではあるが、ご参加いただいた皆様のご闊達な質疑を宜しくお願いしたい。
まず三人の先生から講演内容を簡単にレビューして頂こうと思ったが、会場からかなり多くの質問票が寄せられたので、早速、質問への回答をお願いしたい。

《森田先生への質問》
質問:
フリーバーン牛舎において子牛の事故を防止できる敷料の入れ方はあるか。また敷料を交換すると分娩が進むのはなぜか。
回答:
事故防止を考えるなら滑らない環境を作ることが大切で、湿気るような場所を作らないことが重要である。敷料交換と分娩促進の関係は認識を持ち得ないためコメントは差し控えたい。

質問:
フリーストール牛舎で衛生的乳質を確保するために断尾は必要と考えるが、ストールの調整だけでは改善できず困っているという質問。またもう一人から断尾についての先生のお考えをお聞きしたいという質問も頂いた。
回答:
断尾した農場と断尾していない農場を何百ケ所も比較した調査においても断尾できれいになった例はない。もともと断尾は牛体をきれいにするためではなく、糞尿中に含まれる病気の伝染を防ぐために導入された。そういった病気が多発するオセアニア地方の放牧環境で、それを改善するために生まれた技術である。それがアメリカや日本に伝わったときに誤って引用された。2005年のカナダの実験で断尾しても牛体はきれいにならないという報告がなされている。そうするとフリーストール牛舎の衛生環境を保つには、牛床サイズを変更することはできないのでネックレールやブリスケットボードの位置の調整する程度しか方法はない。
しかし尾は牛が牛床に寝たときに糞尿溝や床の糞尿に付いて汚れるため、その場所が汚れていなければ良いという観点で飼養管理するのも1つの方法である。尾が糞に付くのが気になるのであれば、牛舎で発情や牛の様子を見に行くときにスコップで糞を20センチほど後にずらしたり、頻繁にスクレーパーを動かしたりすればよく、それほど手間ではない。「それはできない」とすべて否定的に捉えるのではなく、その農場に合わせて少し改善するだけでも状況は変わってくる。その改善方法は現場を見ながら支援者と相談しながら行なうことが良いと考える。

質問:
スタンチョンとニューヨークタイストールで乳量に差が出たという研究結果はあるか。首を折り曲げた状態が牛にとってリラックスした姿勢と聞いたことがある。実際に乳量も差が出るのか。
回答:
どのレベルの研究報告かはさておき繋留方法で乳量に差が出るという報告はある。今のところスタンチョンの方が悪者となっている。ただ正直に言って首が曲げられないというレベルで乳量に差が出るのは信じがたい。首が曲げられることによるリラックス効果や健康状態は長いスパンで見たときに差が出ることはあるかもしれないが、乳量に差が出るとすれば採食量の差や疾病などが理由なのではないかと考える。ただ、決してリラックスさせることを否定するつもりはなく、どちらかといえば行動制限をできるだけ無くすことが良い方向に向かうと考える。ただスタンチョンをニューヨークタイストールに変えれば確実に乳量が増えるということは無いであろう。

質問:
牛は地面に向かって飼料を摂取する性質があるとおっしゃっていたが、牛舎構造の都合上、上に餌箱(粗飼料)があるときの牛の行動はどうなるか。また採食量は低下したりするか。
回答:
現実的に採食量が減ることはほとんどないと思われるが、ムダな餌が相当出ると思われる。上にある餌を食べようとするとき牛は引っぱるしぐさをする。子牛の草架台を見ても台の下には大量の牧草が落ちている。よって給与したけどムダになってしまう餌が多い状態になるであろう。もし可能であれば少し頭が奥に入るような餌箱の設計をし、さらに柵を斜めに設置できれば牛が頭を巻いてから後に下がるので下に落とす餌の量は少なくなる。餌を食べる行動を良く見て、もう一工夫すると下に落ちてムダになる餌が減るであろう。

座長:
現在、北海道の乳検をみると牛群平均年齢は3歳10ケ月、平均産次2.6回となっている。長命連産を目指すとき、乳牛の行動から見てこれらを改善する余地はあるのかご意見をお聞きしたい。
回答:
たくさんの酪農家を見てきたわけではないが、私が見た範囲でいうと初産牛への対応がカギを握ると思っている。初産牛は成長の途中でありながら食べるのは遅く、体が大きな経産牛と共に過ごさなければならない。二群飼養している牧場をみても分娩直後のフレッシュ牛群と泌乳中・後期の牛群に分けている場合が多い。この場合、初産牛の泌乳中・後期牛が年上の経産牛と同じグループにいるため明らかに餌が不足する。そのうえに餌槽に餌が24時間無い場合はさらに初産牛が必要とする餌の量が足りなくなる。このような理由から初産牛の泌乳量が少なくなり、さらには二産、三産へと進む牛が少ないのではないかと考える。よって初産牛に対しもっと配慮することで二産、三産への移行が多くなり、平均産次も自然に増えると思う。ほかにも長命連産に繋がる改善策はあると思うが、まずは初産に対する配慮をもう少し手厚くしてやるべきではないかと考えている。

《粕谷先生への質問》
質問:
長日効果で乳量増加や成長増進することはよくわかったが、免疫力向上に対する効果は見られないのか。現場経験から明るさが体細胞数低減に役立っているような気がするのだが。
回答:
私が調べた範囲ではそのような知見は得ていない。ただ、光が体内の様々な経路を通って細胞自体に影響を与えることがあるため、特定の免疫機能に良好な効果を与える可能性はあると思う。

座長:
長日と短日のリズムを保つことが健康に影響するとなれば、やはりそのことで免疫力や耐病性が向上すると考えられるが。
回答:
人間もしっかり食事を取り、睡眠を取ることが免疫力を下げない有効な手段であるのと同じで、牛に対してもリズムを乱さない照明管理をすることで、免疫力の向上とはいかないまでも免疫力を維持する、もしくは下げない効果があるのではないかということは一般論として言えると思う。

質問:
適切な明期管理は成長促進や乳量増加に効果があるとのことだがデメリットはないのか。
回答:
我々はその牛がどの成育ステージなのかによって必要とされる日長時間が変化すると考えている。酪農家によって飼養環境は様々だが、異なるステージの牛が近くにいる場合、隣の牛に不適切な光環境を与えてしまう心配がある。我々の試験場を例にとると、分娩する牛と生まれた子牛が同じ牛舎内にいるため、夜中に分娩が始まると隣のペンにいる子牛にも照明が当たってしまうため、子牛の成長ホルモンの分泌が乱れてしまう可能性がある。つまり飼養環境によってはそのようなデメリットを与えてしまうことも考えられる。

質問:
乾乳期の短日効果で次乳期の泌乳前期乳量が向上するという内容が興味深かったが、この効果は中・長期まで働かないのか。また同一個体にて乾乳期にも短日効果をもたらすことはできるか。
回答:
短日効果が中・長期的に持続することはない。要は乳腺を休ませる時期に都度短日処理を行なうことで次乳期の泌乳量を増加させる効果が現れるので、その都度処理をする必要がある。

座長:
泌乳期に対する長日効果も乾乳期に対する短日効果も、そのステージにあわせて適正に管理する必要があるという理解でよいか。
回答:
おっしゃるとおりである。

質問:
夜間光暴露により成長ホルモンの分泌が抑制されるとのことだが、乱れたものが正常に戻るにはどのくらい期間を要するのか。
回答:
実験中につきデータがなく具体的にわかりかねるが、たぶんそれほど期間はかからないと思われる。今日の講演でリズムが乱れると成長に支障が出るという話をしたが、乱れた状態が続くことが良くないのか、あるいは一時的な乱れだけでも良くないのかという点についても不明である。ただ一回乱れたものを正常な明暗周期に戻すことでリズムは直に戻るものと考えている。

質問:
長日効果はかなり昔から知られていると思うが、実際に活用している農家は少ない印象がある。採用率はどの程度あるのか。また採用されない理由としてどのようなものがあるのか。
回答:
長日効果がどれくらい普及しているかはわかりかねる。しかし、些細な工夫でできる事例なので実際にそれを行なっている事例があっても話題にならないのかもしれない。

座長:
2回搾乳を例にすれば搾乳間隔はざっくり12時間となり、朝搾乳の前作業で牛舎に入る時間から夜搾乳が終わり牛舎の照明を消すまでの時間を考えると、ほぼ14~15時間になると思われる。そうであれば光のコントロールは実施しやすいとも思えるが…。
回答:
作業のタイミングと照明時間の関係はあると思う。よって作業に併せて照明時間を長くすることは比較的実施しやすい。またタイマーで照明時間を設定することも実施しやすいが、反対に照明時間を短くするには工夫が必要となる。

座長:
3回搾乳やロボット搾乳で光コントロールの効果を取り入れたい場合は、また違った考え方やシステムの構築が必要になると思われる。
回答:
おっしゃるとおりである。様々な飼養環境や飼養方法があるので、その飼養方法にあったケースバイケースの照明を工夫する必要がある。

《佐坂先生への質問》
質問:
今後、PAGs検査拡大の予定はあるか。検査後、何日で結果がわかるか。
回答:
もっと現場に近い場所(各事業所)で実施できないのかという質問と理解した。現在は札幌事業所に集約し検査を実施している。検査キットにロスが出ると検査費用も割高になってしまうため、現在の検体数からすると1ケ所に集約する方がメリットあると考えている。しかし検体数は増加しており、導入当初は週2回検査をしていたが今は4回となっている。今後、検体数や需要を考慮したうえで検査体制を検討する場面が出てくると思われる。また、札幌事業所に宅配便で検体を直接届けてくる組合もあり、その場合は到着日の夕方には判定できる体制にある。

質問:
乳検サンプルにおけるPAGs検査はいつ頃から開始できるのか。
回答:
今、検定サンプルで検査できないか検討をはじめたところである。現在、乳成分サンプルにてPAGs検査を行なうと検定員や我々検査側での負担がどの程度増えるかなどのシミュレーションを行なっている。そして牛群検定に使用しているタブレットを利用し対象牛を選別するなどといったところからプロトタイプを完成させ、早ければ次年度上期にモデル地域にてモデル運用を開始し、そこで問題点を解決しながら全道展開へと進めたいと考えている。

質問:
酪農検定検査協会が提案する新たな検査や手法は検査協会で研究し独自で開発したものなのか、それとも他の研究機関の研究成果を踏まえた提案なのか。
回答:
例えばPAGs検査はIDEXXや道北の農協が主体となり現地調査を行なった。またPAGs検査は海外で先行されており、従来の妊娠確認法との精度等を十分確認し、実績を踏まえ導入している。

質問:
バルク乳(旬報)と乳検の乳成分はどれくらい差があるのか。また差が大きいときはどのような対応を行なうのか。
回答:
サンプル採取の時差も考えられるし、サンプル採取方法の問題もあるかもしれない。サンプル採取法については検定組合とともにサンプリングの精度を確認させてもらっている。回答になったかわからないが…。
座長:
これは難しい質問である。バルク乳検査は月3回実施しているが乳検は月1回である。その前後の飼養管理や気温・湿度の変化もあるので、どうしても数値の差は出てしまうであろう。

質問:
酪農検定検査協会では北海道内のDL普及に力を注いでいることと思うが、道外でDLを普及させる予定はあるか。
座長:
北海道と府県では検定事業を運営する組織が違うので一概には言えないが、横のつながりも含めて全国に波及する可能性などをお聞かせ願えれば良いかと思う。
回答:
我々は北海道の検定事業を、そして本州は家畜改良事業団が検定事業を行なっているが、扱っているデータはほぼ同じであるので、そのデータから読み取れる内容の近しいものといえる。
座長:
そうすると全国のデータがリンクしさらに大きなビックデータとして活用されるといった展望も考えられるか。
回答:
農林水産省が「全国版畜産クラウド」という事業を進めている。そこにデータを一括集積しようという構想もあり、そういった動きのなかで共通ソフトなど活用できるツールも出てくるかもしれない。我々もそういった会議体に参加しているので機会をみて情報提供させて頂きたい。

質問:
農場全体の問題点を抽出するためにはDLのどのような機能を使うのが有効か。また乳検は搾乳を開始してから検定するため、分娩前の周産期疾病などのリスクが高い時期は、データを見ることができない。その場合どう対応すべきか。
回答:
牛群の状態を知るためには「カイゼンレポート」を活用し過去や地域と比較してもらうと良い。泌乳が始まっていない要注意牛の確認は「周産期レポート」に分娩予定90日以内の個体リストがあり、そのリストで潜在性ケトーシスのリスクが高い牛(過肥注意牛など)を確認することができるので、そのようなデータを使用して頂ければ良いと思う。

座長:
最後になるが「出生♀牛の分類を乳用ホル♀と肉用♀に分けて頂けるとありがたい」との要望があったのでお伝えしておく。
回答:
成績表のことだと思うが、それも今後改修の予定であり、要望頂いた内容も反映されるであろう。

座長:
会場から頂いた質問票による質疑応答はこれにて終了する。終了予定時刻まであと5分あるので会場から講師への質問や要望を受け付けたい。

《会場から粕谷先生への質問》
会場:
光コントロールは昔から言われている技術で、私も興味があり照明にタイマーを設置したりした経験がある。今日お聞きした講演内容とは切り口が違うが、私は作業時の明るさも重要と考える。例えば搾乳作業において抗生物質混入や労災などの事故を考えると最低限の明るさというものを考える必要があると思う。そこで労災や異物混入など事故と明るさ(光量)の関係を調べた調査結果などはないかお聞きしたい。
回答:
搾乳に限らず作業全般において必要な光量はあるであろう。例えば牛への効果を期待し光を暗くすることはできるが、同時に作業性も考慮しなければいけないというのはおっしゃるとおりである。
講演ではブルーライトをカットしたLEDの話をしたが、実際に使用してみると作業にはまったく支障ないが血液の色が見えないという体験をしたことがある。血液と光の波長からそのような見え方なってしまうのは仕方ないが、例えば獣医師が牛の出血箇所の確認ができないなどの支障がでるかもしれない。よって人間の作業内容も考慮しながら照明を管理する必要があると考える。
会場:
例えばブルーライト低減といった1つの有効性だけを追求するのではなく、状況や環境に併せて何種類かの照明を使い分けるべきという理解で良いか。
回答:
そのとおりである。おっしゃるとおりのキメ細かい管理ができるようになれば良いと思い、我々も様々なデータを集積しているところである。
座長:
様々なファクターが含まれるなかでは、色々な取組みや経験、調査を踏まえながら技術を構築しなければならないということになる。

座長:
さて、今回のシンポジウムでは三人の先生にそれぞれの切り口から少額投資での生産性の向上についてご講演を頂いた。冒頭にも申し上げたが乳牛の行動や生理を理解し、飼養環境を整え、そのモニタリングから得られたデータを積極的に有効的に活用していく、あるいは集積されたデータから得られた知見を地域やグループに面的拡大を図っていくことが重要ではないかと考える。
お陰様をもって今回は経営改善に向け前向きな質疑応答をさせて頂いた。このことは皆様の今後の業務にも大いに参考にして頂けるかと思う。
まだ質問もあるかと思うが、時間となったので意見交換を終了させて頂く。