飼養管理レポート

 
私たち酪農総合研究所は、雪印メグミルクグループの掲げる3つの使命を果たすために、「酪農生産への貢献」の一翼を担う活動に取組んでいます。

特に、酪農産業に関る幅広い分野の科学的・実践的調査研究とその成果の普及を通して、わが国酪農の発展と食糧の安定的需給に寄与してまいります。

2018年5月8日火曜日

カウコンフォートの経済効果と未来

雪印メグミルク株式会社酪農総合研究所は2018年2月1日、酪総研シンポジウム「酪農現場の“カイゼン”を考えるⅡー牛づくりにおけるロスとその対策ー」を開催しました。


第一講演要旨および第二講演要旨に続き、今回は第三講演の要旨を掲載致します。

第一講演要旨…高泌乳牛の繁殖成績の現状とその改善について考える
第二講演要旨…母牛と子牛のための分娩管理

第三講演

演題 : カウコンフォートの経済効果と未来

演者 : 北海道農政部生産振興局技術普及課畜産試験場技術普及室

    上席普及指導員 椋本 正寿 氏















1.カウコンフォ-トの全体像

カウコンフォ-トは、牛の飼養環境の機能である。 飼養環境は、給餌環境を定義する物理的要素と社会的要素の両方で構成されている。 乳牛の飼養環境は、自然な行動の時間配分を実行する能力に影響を及ぼす。最適な環境と栄養とを組み合わせることで、乳牛の時間配分の要求が満たされ、摂食行動や飼料摂取量が最適化され、生産性と健康が向上する。 飼料給与、反芻、および休息の相互作用は、生産性、健康、福祉にとって重要である。 ル-メンの充満と生理学的メカニズムの統合は、飼料摂取量と生産性を制御するが、飼養環境は、乳牛の行動および飼料の産乳反応に対し強力な調節的効果が働く。

2.牛舎環境と牛群の能力
飼養環境の定量的測定で、同じ遺伝能力、同じTMRを給与した牛群の評価をした。これらの酪農場での11頭当たりの平均乳量は29.5kgで、範囲は20.433.5kgであった。 この乳量のバラツキの44%が栄養であった。栄養以外の因子(飼養環境)は、乳量バラツキの56%を説明した。 最も重要な飼養環境要因は、残飼量、飼料の掃き寄せ、飼養密度である。

3.カウコンフォ-トの経済効果
1頭当たりのストール(利用可能なストール1日当たり0.77kg)、残飼量(牛1頭につき1.42.3kg)、飼料の掃き寄せ(牛1頭当たり3.9kg)はすべて牛乳生産と正の関連がある。 飼養環境は栄養と同様に重要である。
ペン以外の場所に居る時間を最小限に抑えることは、最適な時間配分の鍵である。 休憩のための時間配分の要求を満たすことは、より高い乳量(12.33.6kg)をもたらし、跛行の発生率を低下させる可能性がある。
カウコンフォ-トが改善され、休息時間が1時間増加するごとに乳量が0.91.6kg増加する。また、休息時間が増加すると採食時間、反芻時間が増加し、佇立時間が減少し、蹄の出血と跛行が減少する。
生理的変化としてコルチゾル応答の減少、成長ホルモンの増加、乳腺と妊娠牛の子宮角の血流量が増加し、結果として廃用率の減少により生産寿命が長くなる。
慢性的に休息時間が奪われた場合、飼料の採食時間と摂取可能量は31の比率で失われる。起立時間が増加すると、採食時間 が21の比率で失われる。休息行動が制限されている場合、他の行動より休息が優先される。
ストールの快適性を改善することは、産乳量を改善し、淘汰率を低下させ、体細胞数を減少させ、牛群の跛行状態を改善する。
飼養環境の最適化は採食行動を促し、乾物摂取量と産乳量の増加につながる。乾物摂取量1kg は乳量2kgに相当する。
初産牛と経産牛を一緒に飼養すると、休息活動、反芻行動、産乳量が減少する。産乳量は約10%減少する。飼養密度が増加すると過密レベルが低くても(113%)、悪影響がさらに顕著になる。過密状態の最大の経済的損失は、長期的な健康および繁殖成績の低下であるかもしれないが、ある条件下では、乳量、乳質および乳成分の変化が起こる可能性がある。飼養密度が約120%では休息が減少し、能力の低下が予想される重要なポイントであると考えられる。
暑熱ストレスの軽減はTHI68から始まり、乾乳期と泌乳期で重要である。これにより乾物摂取量、産乳量(1日当たり平均3.5kg)、跛行、移行期の改善を図ることができる。牛の快適性は積極的な暑熱ストレスの軽減が必要である。
跛行は、毎年少なくとも36%の乳量減少、5%の廃用率増加、そして受胎率の低下をもたらす。特にパ-ラ-における穏やかな扱いにより、乳量が3.513%増加し、牛の痛みに対する感情移入が大きくなると、産乳量が約900kg増加する。 穏やかな扱いのアプローチには費用がかからない。

4.カウコンフォ-トの影響評価
100頭(搾乳牛・乾乳牛)  乳価90円/kg、 飼料費50円/kgの条件では乳量減少(暑熱ストレスによる乾物摂取量の低下)で510,000円、乳量減少(遺伝能力の高い牛の淘汰)で904,000円、分娩間隔の長期化で315,541円、淘汰牛増加と販売頭数減少で950,000円、総影響額合計が2,679,541円と試算される。この他に診療費用が加算される。

5.カウコンフォ-トの未来
乳牛が安定した社会集団に飼われ、最適な環境が自由な活動を提供し、彼らの正常な行動を最もよく支える環境で飼われることが、遠くない将来には一般的になるかもしれない。
酪農家は牛群の社会的ニ-ズと物理的ニ-ズの両方に適応した牛舎と管理方法を採用している。
海外では、アニマルウェルフェアの取組みが認証化され、食品の優位性を示す一つの材料となっている。
EUでは、共通農業政策の一環として、アニマルウェルフェアに配慮した飼養方法に転換する農業者が支援され、畜産物のブランド化が進められている事例がある。
北米では、アニマルウェルフェアに係る法律を制定する動きや、食品企業の販売戦略の一環として、アニマルウェルフェアを重視する消費者への対応から、農場や生産者団体等が飼養方法を転換する取組もみられる。
アニマルウェルフェアの国際基準は、OIE(国際獣疫事務局)より順次示されており、日本もその基準に準拠し、公益社団法人畜産技術協会によって、「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」が策定されている。
 北海道酪農・肉用牛生産近代化計画において、供用期間の延長や子牛の死亡率の低下など、家畜のベストパフォーマンスを発揮させる手法の一つとしてこの「飼養管理指針」に配慮した飼養管理を推進している。「安全で高品質な乳製品及び牛肉の安定供給の役割と責任を果たす」ことや、「北海道及び地域の重要な産業として持続的な発展を遂げる」という目的を達成するために、「飼養管理指針」を要件の一つとしている畜産のJGAPの活用なども含め、生産現場で対応し得る飼養管理の推進が図られている。

2018年4月3日火曜日

母牛と子牛のための分娩管理

雪印メグミルク株式会社酪農総合研究所は2018年2月1日、酪総研シンポジウム「酪農現場の“カイゼン”を考えるⅡー牛づくりにおけるロスとその対策ー」を開催しました。


前回の第一講演要旨に続き、今回は第二講演の要旨を掲載致します。



第二講演

演題 : 母牛と子牛のための分娩管理

演者 : 株式会社 石井獣医サポートサービス

    代表取締役 石井 三都夫 氏





 







 元気で生まれてくるはずの新生子牛の約8%が分娩事故で命をなくしている。今回あえて「…のための」としたのは、分娩管理が管理する人の都合により行われていることを憂慮しているからである。母牛や子牛のための“カイゼン”とは何かを考えながら分娩管理技術を解説する。
実際に近年の乳検データ上では難産は減少し、一方で死産(分娩時の子牛の死亡事故)は年々増加している。これは、酪農場が大型化多頭化する中、農家あるいは従業員が分娩に立ち会う機会が減っていることが背景にある。無監視のまま分娩が進行しない(広い意味の難産である)で生じる死産や、せっかく娩出されても、分娩牛舎の構造や混雑などの劣悪な環境から生じる新生子死が後を絶たない。また、一方では、難産や死産への警戒や牛舎における作業上の都合による早すぎるタイミングの助産は、かえって難産や死産の増加につながっている。
今回は、ヒトのお産とウシのお産の違いについて考えながら、ウシにはどのような分娩管理上の問題があるのか?分娩事故率の低減のためにはどのような管理が求められるのかを考えてみよう。新生子牛とヒトの新生児との大きな違いは母から子への受動免疫の移行に関する機構の違いであろう。ヒトは生まれながらにして血液を介してすでに免疫が移行している。ウシは生まれた時点では免疫の移行は行われておらず、元気に立ち上がって、初乳を自ら吸引することで初めて免疫が移行する。すなわち、生まれた子牛は元気でなければならない。もう一つ重要なことは、免疫学的に無防備で生まれた子牛たちや母牛の子宮感染症を予防する上で、分娩房は可能な限り清潔でなければならない。自然分娩で生まれた子牛は元気であり病気をせずにすくすくと育つ。分娩管理上の基本は自然分娩を見守ることである。自然分娩で生ませるためには、寝起きしやすく、清潔で、広く、単独になれる分娩環境を提供することが必要である。やむを得ず劣悪な環境で分娩させる場合には、しっかりと分娩観察を行い、適切なタイミング(足を出してから初産牛2時間、経産牛1時間)で、介助の影響を最小限にしながら助産することを心掛けたい。
すべてのウシとヒトが幸せになれますように…

講演資料はコチラ

2018年3月8日木曜日

高泌乳牛の繁殖成績の現状とその改善について考える

雪印メグミルク株式会社酪農総合研究所は2018年2月1日、酪総研シンポジウム「酪農現場の“カイゼン”を考えるⅡ -牛づくりにおけるロスとその対策-」を開催しました。



その講演要旨を今回から3回連載にて掲載いたします。


第一講演

演題 : 高泌乳牛の繁殖成績の現状とその改善について考える

演者 : 酪農学園大学 農食環境学群 循環学類 家畜繁殖学

    教授 堂地 修 氏














 乳牛の繁殖成績は、わが国を含む世界各地域において約30年以上にわたって低下し続けてきた。繁殖成績低下の具体的内容としては、分娩後の初回受胎率の低下、それに伴う空胎日数および分娩間隔の延長、長期不受胎牛および淘汰牛の増加等が主たるものである。乳牛の繁殖成績低下の原因は、泌乳能力の向上を追及した結果であると言われることが多い。一見すると乳量の増加と受胎成績の関係を見るとそのようにみえる。しかし、乳牛の繁殖成績低下の原因を乳量増加のみに焦点を絞って考えてみても繁殖成績の改善の方策を見出すことは簡単でない。農家1戸当たりの搾乳頭数は、昭和60年代の50頭台から平成20年代には100頭台に増えている。1戸当たりの搾乳頭数の増加にともない、フリーストール牛舎やTMRの導入など飼養管理の効率化も進み、個体から群へと飼養管理方法は変化してきた。このような中、牛群の中には個体の能力を十分に発揮でない牛も少なからず存在していると思われる。さらに乳量増加と同じように飼養頭数の増加に従うように経産牛の初回受胎率は低下してきた。

 一般に繁殖成績への泌乳の影響のない育成牛では初回受胎率が最も高く、人工授精回数が増えるにしたがい低下し、4回目以降は一段と低くなる。演者らの受胎率調査では、経産牛では、初回が2回目以降の人工授精の受胎率に比べて最も低いことが分かっている。このことから今日の経産牛の受胎率については、さまざまな観点から検討する必要がある。

 乳牛の繁殖成績を改善するためには受胎率の向上が重要であり、そのためには繁殖生理的な検討だけでは難しく、栄養管理との関係について考える必要がある。一方、最近の報告によると国内の乳牛の空胎日数の最頻値は78日であり、多くの牛は分娩後60日前後に初回人工授精が実施されて受胎していると思わる。このことは、受胎が大きく遅れる牛が多いことを示しており、このような牛に重点を置いた対策を検討することも経産牛の繁殖成績の改善において重要であると思われる。

 高泌乳牛では、分娩前後の栄養状態が次回の受胎成績に強く影響することが良く知られている。一般に乳牛は分娩前から採食量が減少し、分娩後しばらくは採食量が減少したままの状態にあり、体重が減少し、ボディ・コンディション・スコアが低下する。そのような状態にあっても、今日の乳牛は乳量を増やし続け、ピーク乳量到達が早い。一方、乳量増加に見合う十分なエネルギーを採食(飼料)によって賄うことができない牛が多く、このような牛は繁殖機能の回復が遅れる受胎も遅れる。結果的に繁殖成績の低下が顕著になるとともに、健康状態にもさまざまな悪影響が発生する。そのため、群管理における栄養管理と繁殖管理については詳細な検討が必要である。特に、牛群の規模が大きくなりつつある今日にあっては重要である。

 最近の酪農業界は、乳価や個体販売価格の上昇など明るい話題もあるものの、依然として酪農家戸数の減少、担い手不足や生産乳量の増加など重要な課題が多く存在する。このような中、乳牛の繁殖成績の改善は重要かつ喫緊の課題である。しかし、繁殖成績の改善は繁殖技術を駆使しても簡単に解決できなことはこれまでの経験からも分かっている。そのため、育種、栄養、飼料生産、繁殖など、乳牛の飼養管理に関する全てについて、もう一度見直す必要がある。本講演では、演者がこれまで得てきたデータを紹介しながら、乳牛の繁殖成績、特に受胎成績に影響する要因について焦点を当てて検討してみたい。

講演資料はコチラ

2018年2月7日水曜日

哺乳作業のカイゼン例

今回は子牛の哺乳作業のカイゼン例の紹介です。











哺乳作業は哺乳のタイミングとミルクの温度を考えながら行なう必要があります。
しかし、子牛の頭数が増えると作業も煩雑になり、作業効率も低下しがちです。












そんなときは哺乳びんホールダ(1個3,000円ほど)を使うのも有効です。















見てのとおり作業者が哺乳びんを持つ必要がなく、人の気配に敏感な子牛も安心しながらミルクを飲んでいます。

この牧場では哺乳作業は1人で実施しています。
今までは作業者が哺乳びんを手に持って子牛1頭づつ哺乳していました。しかし、哺乳びんホルダを使用し、すべての子牛に同時に哺乳する作業形態としたところ、作業時間は以前の1/3(9頭哺乳で1時間半 が30分に)と大幅に作業時間を短縮することができました。
また作業時間の短縮によるミルクの温度低下の改善や人の気配に敏感な子牛に対する哺乳促進にもつながりました。













最後に・・・
この牧場では、今回、哺乳道具一式を収納するラックを設置しました。
この整理整頓より、「どこに」、「どれが」、「どれくらい」あるかが一目瞭然となり、収納管理と作業効率が向上するだけではなく見た目も良くなりました。

今回は、ちょっとした気付きと行動力があれば、少ない投資でも作業効率をカイゼンできるという一例でした。