コラム20 『アンコンシャスバイアスについて考えてみる』
[酪総研コラム20ー2025年4月掲載]
『アンコンシャスバイアスについて考えてみる』
先日、自宅でテレビを見ていると、あるCMが流れた。映像には人間の声が一切なく、顔も映らない。テレビ画面には、漫画のコメント風の吹き出しに「(ディナー会計時)支払いはカードで」「ピンク色のぬいぐるみが欲しい」と言った「文字」のみが表示される。そして最後に「聞こえてきたのは男性の声ですか?女性の声ですか?」「無意識の偏見に気付くことからはじめませんか?」というメッセージが流れる。これはあるCMの「聞こえてきた声」という作品だ。
私は差別や偏見には敏感な方だと思っていたが、このCMを見た瞬間、無意識のうちに「支払いは男性の声」「ピンクのぬいぐるみは女性の声」と想像していたことに気づき、ハッとさせられた。頭の中で「そういうものだろう」と自然にイメージしてしまっていたのだ。最近、社内の研修でも「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」について学ぶ機会が増えたが、改めて調べてみると、内閣府男女共同参画局の資料(※1)にはこうある。「『自分自身は気づいていない、ものの見方やとらえ方のゆがみや偏り』を指し、自分自身では意識しづらく、ゆがみや偏りがあるとは認識していないため、『無意識の偏見』と呼ばれる。」私自身も例に漏れず、無意識の偏見を持っていたことを思い知らされた出来事だった。
ここで少し話を変えて、「酪農」に対する一般的なイメージについて考えてみたい。おそらく、多くの人は「広々とした放牧地で牛がのびのびと過ごし、青々とした牧草を食べている」といった光景を思い浮かべるのではないだろうか。しかし、酪農王国・北海道においても、多くの乳牛は基本的に牛舎内で過ごし、1日2回以上、トウモロコシや大豆などの穀物を配合した「濃厚飼料」を与えられているのが現実だ。さらに、令和4年度の日本の飼料自給率は全体で約26%。このうち粗飼料(牧草など)は78%の自給率を確保しているものの、エネルギー源となる濃厚飼料の自給率はわずか13%(※2)。つまり、乳牛の主要な飼料のおよそ8割は海外に依存しているのだ。
この事実は酪農業界では常識かもしれないが、一般消費者にはあまり知られていない。つまり、「国産の牛乳・乳製品」は国産の飼料だけでできていると思われがちだが、実際にはその生産を支える飼料の多くが輸入に頼っているのが現状だ。
直近では、輸入飼料価格の高騰や、脱脂粉乳の過剰在庫が社会問題となり、生乳の生産抑制が進み、酪農乳業界は未曾有の危機に直面した。その影響で、乳価が引き上げられ、牛乳・乳製品の価格が上昇し、消費者離れが懸念されている。スーパーで並ぶ商品を見たとき、「値上がりしたから買うのをやめよう」と直感的に判断するのは自然なことだ。しかし、その背景にある事情を知ると、単純な値上げではなく、酪農家の苦悩や経営の厳しさが見えてくる。
人間の脳には「無意識的な処理」と「意識的な処理」の二つがあり、無意識の処理は経験則から高速に判断を下すとされている。これがいわゆる「直感」と呼ばれるものだ。一方、意識的な処理は、直感では処理しきれない情報を慎重に考え、判断するプロセスを指す。しかし、これは脳に大きな負荷をかけ、ストレスの要因になることもある。ただ、無意識の「決めつけ」に気づき、意識的に考え直すことも必要なのかもしれない。
「ピンクのぬいぐるみ=女性が欲しいもの」と決めつけるのではなく、「この商品を欲しいのはどんな人だろう?」と想像してみる。酪農についても、「牛乳が最近値上げばっかり=高いから買わない」と思い込むのではなく、「その生産背景はどうなっているのか?」と少しだけ視点を広げてみる。すると、この小さな気づきが、日本国内の酪農家の未来を支える一歩になるかもしれない。
参考文献
※1:内閣府 男女共同参画局
(https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/pdf/movie_r05.pdf)
※2:農林水産省「飼料自給率の現状と目標」
(https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/tikusan/attach/pdf/r5bukai2-10.pdf)