飼養管理レポート

 
私たち酪農総合研究所は、雪印メグミルクグループの掲げる3つの使命を果たすために、「酪農生産への貢献」の一翼を担う活動に取組んでいます。

特に、酪農産業に関る幅広い分野の科学的・実践的調査研究とその成果の普及を通して、わが国酪農の発展と食糧の安定的需給に寄与してまいります。

2019年6月10日月曜日

2018年度 酪総研シンポジウム 意見交換要旨

雪印メグミルク株式会社酪農総合研究所は2019年1月31日、酪総研シンポジウム「酪農現場の“カイゼン”を考えるⅢ -少額投資で生産性の向上を!-」を開催しました。


前回までその講演要旨を掲載してきましたが、今回は講演内容をもとにおこなった意見交換の要旨を掲載します。

第一講演要旨…牛の行動を基に施設や飼養管理を見直す~人も牛も幸せに~
第二講演要旨…酪農における光環境制御の効果とそのメカニズム
第三講演要旨…カイゼンの道しるべ「乳検データ」の活かし方を考える

【意見交換 壇上者】
第一演者…酪農学園大学 農食環境学群 家畜管理・行動学研究室
     教 授 森田 茂 氏
第二演者…農研機構 畜産研究部門 畜産環境研究領域 飼育環境ユニット
     上級研究員 粕谷 悦子 氏
第三演者…公益社団法人 北海道酪農検定検査協会 乳牛検定部 検定課
     課 長 佐坂 俊弘 氏
座 長 …雪印メグミルク株式会社 酪農総合研究所
     担当部長 佐々木 理順
     課 長  野﨑 則彦

座長:
それでは意見交換を始めます。
当シンポジウムは、一昨年から「酪農現場のカイゼンを考える」という大テーマのもと、生乳生産現場のロスを発見し、その対策を講じることで経営改善を図ることを目的として開催している。カイゼンシリーズ第3回目となる今回のテーマは『少額投資で生産性の向上を!』とした。
今日、本テーマに対し3題ご講演を頂いたが、一言で表せば乳牛の行動や生理を理解し、飼養環境を整え、適切なモニタリングと得られたデータの活用を高め、さらにそのデータ活用の面的拡大を図る、これが少額投資で生産性を上げる基本的手法の一つではないかと考えた。そのベクトルを我々が適切かつ明確に共有することが重要であり、これにより理論に裏打ちされた技術が現場での効率的な実践と波及につながるものと考える。
これらについてさらに理解を深め、皆様の今後の飼養管理・経営管理の向上への一助として頂くことを目的に、ご参加いただいた皆様との意見交換を進めたい。
限られた時間ではあるが、ご参加いただいた皆様のご闊達な質疑を宜しくお願いしたい。
まず三人の先生から講演内容を簡単にレビューして頂こうと思ったが、会場からかなり多くの質問票が寄せられたので、早速、質問への回答をお願いしたい。

《森田先生への質問》
質問:
フリーバーン牛舎において子牛の事故を防止できる敷料の入れ方はあるか。また敷料を交換すると分娩が進むのはなぜか。
回答:
事故防止を考えるなら滑らない環境を作ることが大切で、湿気るような場所を作らないことが重要である。敷料交換と分娩促進の関係は認識を持ち得ないためコメントは差し控えたい。

質問:
フリーストール牛舎で衛生的乳質を確保するために断尾は必要と考えるが、ストールの調整だけでは改善できず困っているという質問。またもう一人から断尾についての先生のお考えをお聞きしたいという質問も頂いた。
回答:
断尾した農場と断尾していない農場を何百ケ所も比較した調査においても断尾できれいになった例はない。もともと断尾は牛体をきれいにするためではなく、糞尿中に含まれる病気の伝染を防ぐために導入された。そういった病気が多発するオセアニア地方の放牧環境で、それを改善するために生まれた技術である。それがアメリカや日本に伝わったときに誤って引用された。2005年のカナダの実験で断尾しても牛体はきれいにならないという報告がなされている。そうするとフリーストール牛舎の衛生環境を保つには、牛床サイズを変更することはできないのでネックレールやブリスケットボードの位置の調整する程度しか方法はない。
しかし尾は牛が牛床に寝たときに糞尿溝や床の糞尿に付いて汚れるため、その場所が汚れていなければ良いという観点で飼養管理するのも1つの方法である。尾が糞に付くのが気になるのであれば、牛舎で発情や牛の様子を見に行くときにスコップで糞を20センチほど後にずらしたり、頻繁にスクレーパーを動かしたりすればよく、それほど手間ではない。「それはできない」とすべて否定的に捉えるのではなく、その農場に合わせて少し改善するだけでも状況は変わってくる。その改善方法は現場を見ながら支援者と相談しながら行なうことが良いと考える。

質問:
スタンチョンとニューヨークタイストールで乳量に差が出たという研究結果はあるか。首を折り曲げた状態が牛にとってリラックスした姿勢と聞いたことがある。実際に乳量も差が出るのか。
回答:
どのレベルの研究報告かはさておき繋留方法で乳量に差が出るという報告はある。今のところスタンチョンの方が悪者となっている。ただ正直に言って首が曲げられないというレベルで乳量に差が出るのは信じがたい。首が曲げられることによるリラックス効果や健康状態は長いスパンで見たときに差が出ることはあるかもしれないが、乳量に差が出るとすれば採食量の差や疾病などが理由なのではないかと考える。ただ、決してリラックスさせることを否定するつもりはなく、どちらかといえば行動制限をできるだけ無くすことが良い方向に向かうと考える。ただスタンチョンをニューヨークタイストールに変えれば確実に乳量が増えるということは無いであろう。

質問:
牛は地面に向かって飼料を摂取する性質があるとおっしゃっていたが、牛舎構造の都合上、上に餌箱(粗飼料)があるときの牛の行動はどうなるか。また採食量は低下したりするか。
回答:
現実的に採食量が減ることはほとんどないと思われるが、ムダな餌が相当出ると思われる。上にある餌を食べようとするとき牛は引っぱるしぐさをする。子牛の草架台を見ても台の下には大量の牧草が落ちている。よって給与したけどムダになってしまう餌が多い状態になるであろう。もし可能であれば少し頭が奥に入るような餌箱の設計をし、さらに柵を斜めに設置できれば牛が頭を巻いてから後に下がるので下に落とす餌の量は少なくなる。餌を食べる行動を良く見て、もう一工夫すると下に落ちてムダになる餌が減るであろう。

座長:
現在、北海道の乳検をみると牛群平均年齢は3歳10ケ月、平均産次2.6回となっている。長命連産を目指すとき、乳牛の行動から見てこれらを改善する余地はあるのかご意見をお聞きしたい。
回答:
たくさんの酪農家を見てきたわけではないが、私が見た範囲でいうと初産牛への対応がカギを握ると思っている。初産牛は成長の途中でありながら食べるのは遅く、体が大きな経産牛と共に過ごさなければならない。二群飼養している牧場をみても分娩直後のフレッシュ牛群と泌乳中・後期の牛群に分けている場合が多い。この場合、初産牛の泌乳中・後期牛が年上の経産牛と同じグループにいるため明らかに餌が不足する。そのうえに餌槽に餌が24時間無い場合はさらに初産牛が必要とする餌の量が足りなくなる。このような理由から初産牛の泌乳量が少なくなり、さらには二産、三産へと進む牛が少ないのではないかと考える。よって初産牛に対しもっと配慮することで二産、三産への移行が多くなり、平均産次も自然に増えると思う。ほかにも長命連産に繋がる改善策はあると思うが、まずは初産に対する配慮をもう少し手厚くしてやるべきではないかと考えている。

《粕谷先生への質問》
質問:
長日効果で乳量増加や成長増進することはよくわかったが、免疫力向上に対する効果は見られないのか。現場経験から明るさが体細胞数低減に役立っているような気がするのだが。
回答:
私が調べた範囲ではそのような知見は得ていない。ただ、光が体内の様々な経路を通って細胞自体に影響を与えることがあるため、特定の免疫機能に良好な効果を与える可能性はあると思う。

座長:
長日と短日のリズムを保つことが健康に影響するとなれば、やはりそのことで免疫力や耐病性が向上すると考えられるが。
回答:
人間もしっかり食事を取り、睡眠を取ることが免疫力を下げない有効な手段であるのと同じで、牛に対してもリズムを乱さない照明管理をすることで、免疫力の向上とはいかないまでも免疫力を維持する、もしくは下げない効果があるのではないかということは一般論として言えると思う。

質問:
適切な明期管理は成長促進や乳量増加に効果があるとのことだがデメリットはないのか。
回答:
我々はその牛がどの成育ステージなのかによって必要とされる日長時間が変化すると考えている。酪農家によって飼養環境は様々だが、異なるステージの牛が近くにいる場合、隣の牛に不適切な光環境を与えてしまう心配がある。我々の試験場を例にとると、分娩する牛と生まれた子牛が同じ牛舎内にいるため、夜中に分娩が始まると隣のペンにいる子牛にも照明が当たってしまうため、子牛の成長ホルモンの分泌が乱れてしまう可能性がある。つまり飼養環境によってはそのようなデメリットを与えてしまうことも考えられる。

質問:
乾乳期の短日効果で次乳期の泌乳前期乳量が向上するという内容が興味深かったが、この効果は中・長期まで働かないのか。また同一個体にて乾乳期にも短日効果をもたらすことはできるか。
回答:
短日効果が中・長期的に持続することはない。要は乳腺を休ませる時期に都度短日処理を行なうことで次乳期の泌乳量を増加させる効果が現れるので、その都度処理をする必要がある。

座長:
泌乳期に対する長日効果も乾乳期に対する短日効果も、そのステージにあわせて適正に管理する必要があるという理解でよいか。
回答:
おっしゃるとおりである。

質問:
夜間光暴露により成長ホルモンの分泌が抑制されるとのことだが、乱れたものが正常に戻るにはどのくらい期間を要するのか。
回答:
実験中につきデータがなく具体的にわかりかねるが、たぶんそれほど期間はかからないと思われる。今日の講演でリズムが乱れると成長に支障が出るという話をしたが、乱れた状態が続くことが良くないのか、あるいは一時的な乱れだけでも良くないのかという点についても不明である。ただ一回乱れたものを正常な明暗周期に戻すことでリズムは直に戻るものと考えている。

質問:
長日効果はかなり昔から知られていると思うが、実際に活用している農家は少ない印象がある。採用率はどの程度あるのか。また採用されない理由としてどのようなものがあるのか。
回答:
長日効果がどれくらい普及しているかはわかりかねる。しかし、些細な工夫でできる事例なので実際にそれを行なっている事例があっても話題にならないのかもしれない。

座長:
2回搾乳を例にすれば搾乳間隔はざっくり12時間となり、朝搾乳の前作業で牛舎に入る時間から夜搾乳が終わり牛舎の照明を消すまでの時間を考えると、ほぼ14~15時間になると思われる。そうであれば光のコントロールは実施しやすいとも思えるが…。
回答:
作業のタイミングと照明時間の関係はあると思う。よって作業に併せて照明時間を長くすることは比較的実施しやすい。またタイマーで照明時間を設定することも実施しやすいが、反対に照明時間を短くするには工夫が必要となる。

座長:
3回搾乳やロボット搾乳で光コントロールの効果を取り入れたい場合は、また違った考え方やシステムの構築が必要になると思われる。
回答:
おっしゃるとおりである。様々な飼養環境や飼養方法があるので、その飼養方法にあったケースバイケースの照明を工夫する必要がある。

《佐坂先生への質問》
質問:
今後、PAGs検査拡大の予定はあるか。検査後、何日で結果がわかるか。
回答:
もっと現場に近い場所(各事業所)で実施できないのかという質問と理解した。現在は札幌事業所に集約し検査を実施している。検査キットにロスが出ると検査費用も割高になってしまうため、現在の検体数からすると1ケ所に集約する方がメリットあると考えている。しかし検体数は増加しており、導入当初は週2回検査をしていたが今は4回となっている。今後、検体数や需要を考慮したうえで検査体制を検討する場面が出てくると思われる。また、札幌事業所に宅配便で検体を直接届けてくる組合もあり、その場合は到着日の夕方には判定できる体制にある。

質問:
乳検サンプルにおけるPAGs検査はいつ頃から開始できるのか。
回答:
今、検定サンプルで検査できないか検討をはじめたところである。現在、乳成分サンプルにてPAGs検査を行なうと検定員や我々検査側での負担がどの程度増えるかなどのシミュレーションを行なっている。そして牛群検定に使用しているタブレットを利用し対象牛を選別するなどといったところからプロトタイプを完成させ、早ければ次年度上期にモデル地域にてモデル運用を開始し、そこで問題点を解決しながら全道展開へと進めたいと考えている。

質問:
酪農検定検査協会が提案する新たな検査や手法は検査協会で研究し独自で開発したものなのか、それとも他の研究機関の研究成果を踏まえた提案なのか。
回答:
例えばPAGs検査はIDEXXや道北の農協が主体となり現地調査を行なった。またPAGs検査は海外で先行されており、従来の妊娠確認法との精度等を十分確認し、実績を踏まえ導入している。

質問:
バルク乳(旬報)と乳検の乳成分はどれくらい差があるのか。また差が大きいときはどのような対応を行なうのか。
回答:
サンプル採取の時差も考えられるし、サンプル採取方法の問題もあるかもしれない。サンプル採取法については検定組合とともにサンプリングの精度を確認させてもらっている。回答になったかわからないが…。
座長:
これは難しい質問である。バルク乳検査は月3回実施しているが乳検は月1回である。その前後の飼養管理や気温・湿度の変化もあるので、どうしても数値の差は出てしまうであろう。

質問:
酪農検定検査協会では北海道内のDL普及に力を注いでいることと思うが、道外でDLを普及させる予定はあるか。
座長:
北海道と府県では検定事業を運営する組織が違うので一概には言えないが、横のつながりも含めて全国に波及する可能性などをお聞かせ願えれば良いかと思う。
回答:
我々は北海道の検定事業を、そして本州は家畜改良事業団が検定事業を行なっているが、扱っているデータはほぼ同じであるので、そのデータから読み取れる内容の近しいものといえる。
座長:
そうすると全国のデータがリンクしさらに大きなビックデータとして活用されるといった展望も考えられるか。
回答:
農林水産省が「全国版畜産クラウド」という事業を進めている。そこにデータを一括集積しようという構想もあり、そういった動きのなかで共通ソフトなど活用できるツールも出てくるかもしれない。我々もそういった会議体に参加しているので機会をみて情報提供させて頂きたい。

質問:
農場全体の問題点を抽出するためにはDLのどのような機能を使うのが有効か。また乳検は搾乳を開始してから検定するため、分娩前の周産期疾病などのリスクが高い時期は、データを見ることができない。その場合どう対応すべきか。
回答:
牛群の状態を知るためには「カイゼンレポート」を活用し過去や地域と比較してもらうと良い。泌乳が始まっていない要注意牛の確認は「周産期レポート」に分娩予定90日以内の個体リストがあり、そのリストで潜在性ケトーシスのリスクが高い牛(過肥注意牛など)を確認することができるので、そのようなデータを使用して頂ければ良いと思う。

座長:
最後になるが「出生♀牛の分類を乳用ホル♀と肉用♀に分けて頂けるとありがたい」との要望があったのでお伝えしておく。
回答:
成績表のことだと思うが、それも今後改修の予定であり、要望頂いた内容も反映されるであろう。

座長:
会場から頂いた質問票による質疑応答はこれにて終了する。終了予定時刻まであと5分あるので会場から講師への質問や要望を受け付けたい。

《会場から粕谷先生への質問》
会場:
光コントロールは昔から言われている技術で、私も興味があり照明にタイマーを設置したりした経験がある。今日お聞きした講演内容とは切り口が違うが、私は作業時の明るさも重要と考える。例えば搾乳作業において抗生物質混入や労災などの事故を考えると最低限の明るさというものを考える必要があると思う。そこで労災や異物混入など事故と明るさ(光量)の関係を調べた調査結果などはないかお聞きしたい。
回答:
搾乳に限らず作業全般において必要な光量はあるであろう。例えば牛への効果を期待し光を暗くすることはできるが、同時に作業性も考慮しなければいけないというのはおっしゃるとおりである。
講演ではブルーライトをカットしたLEDの話をしたが、実際に使用してみると作業にはまったく支障ないが血液の色が見えないという体験をしたことがある。血液と光の波長からそのような見え方なってしまうのは仕方ないが、例えば獣医師が牛の出血箇所の確認ができないなどの支障がでるかもしれない。よって人間の作業内容も考慮しながら照明を管理する必要があると考える。
会場:
例えばブルーライト低減といった1つの有効性だけを追求するのではなく、状況や環境に併せて何種類かの照明を使い分けるべきという理解で良いか。
回答:
そのとおりである。おっしゃるとおりのキメ細かい管理ができるようになれば良いと思い、我々も様々なデータを集積しているところである。
座長:
様々なファクターが含まれるなかでは、色々な取組みや経験、調査を踏まえながら技術を構築しなければならないということになる。

座長:
さて、今回のシンポジウムでは三人の先生にそれぞれの切り口から少額投資での生産性の向上についてご講演を頂いた。冒頭にも申し上げたが乳牛の行動や生理を理解し、飼養環境を整え、そのモニタリングから得られたデータを積極的に有効的に活用していく、あるいは集積されたデータから得られた知見を地域やグループに面的拡大を図っていくことが重要ではないかと考える。
お陰様をもって今回は経営改善に向け前向きな質疑応答をさせて頂いた。このことは皆様の今後の業務にも大いに参考にして頂けるかと思う。
まだ質問もあるかと思うが、時間となったので意見交換を終了させて頂く。


2019年5月7日火曜日

カイゼンの道しるべ 「乳検データ」の活かし方を考える

雪印メグミルク株式会社酪農総合研究所は2019年1月31日、酪総研シンポジウム「酪農現場の“カイゼン”を考えるⅢ -少額投資で生産性の向上を!-」を開催しました。



第一講演および第二講演の要旨に続き、今回は第三講演の要旨を掲載致します。

第一講演要旨…牛の行動を基に施設や飼養管理を見直す~人も牛も幸せに~
第二講演要旨…酪農における光環境制御の効果とそのメカニズム

第三講演

演題 : カイゼンの道しるべ「乳検データ」の活かし方を考える

演者 : 公益社団法人 北海道酪農検定検査協会 乳牛検定部 検査課

    課長 佐坂 俊弘 氏












 乳検データは、経営改善に繋がるヒントが多く掲載されていることから「宝の山」に例えられます。その一方で「十分に活用できていない」という声を頂戴することも少なくありませんでした。
 その解決に向けて、シンプルでありながらも経営に役立つ情報の提供方法を検討し、平成27年に牛群検定WebシステムDL(以下、DL)をリリースしました。
平成30年4月には、農場をサポートする皆様を対象とした「DL支援者版」の運用を開始し、地域全体の課題解決ツールとして普及拡大に取り組んで参りました。
 本日は、皆様方それぞれの「カイゼン」のお役に立てるよう、システムの具体的な活用方法をご提案したいと考えています。

■「勘と経験による経営」から「データに基づく経営」へ
 ビジネス用語にKKDという言葉があります。これは、経験のK、勘のK、度胸のDの頭文字を取ったもので、長く酪農経営を支えてきた要素のひとつです。一方で、多頭化や従業員雇用、作業の外部化が進行した今日では、農場に関わる人達のベクトルを統一するためには、データに基づく意思疎通、意思決定が求められています。
 乳検情報は、過去から現在までの牛群管理が反映された結果であり、農場内外での課題共有、仮説検証に有用な材料となります。本日ご紹介するDLは、その情報を最小の労力で使いこなすためのツールに他なりません。

■牛群検定WebシステムDL(生産者向け)
 DLは、乳検情報をベースに、①繁殖管理、②バルク情報連携、③損失の見える化 の3つの機能で構成され、大半の情報が自動で更新されます。月1回の乳検情報に、更新頻度の高い繁殖情報、バルク情報を加えることで、取り組みの検証サイクルを従来よりも高速で回すことが可能となります。
 「バルク情報連携」機能では、牛群全体の栄養管理、乳質管理に使えるバルク情報と牛群構成、動態を把握できる乳検情報を組み合わせ、より踏み込んだ分析を行うことができます。
 「損失の見える化」機能では、従来の数字中心の情報提供とは異なり、利用者のデータ分析スキルに極力依存しない情報提供を目指しています。特にベンチマークの概念を取り入れた「総合グラフ」は、課題発見と共有のアイテムとして高い評価を頂いています。

■牛群検定WebシステムDL(支援者版)
 DL支援者版では、検定情報の利用場面(人・場所・機会)の拡大、更にはデータ分析に係る支援者の労力低減を開発コンセプトに掲げています。
 現在、JA、普及センター、TMRセンター等での利用が広がっており、57団体で延べ2,249農場のデータが利用されています(平成30年12月現在)。
 TMRセンターで飼料設計を担当している方を例に挙げると、自動で反映される構成員全体の出荷乳量、バルク乳成分の変化やトレンドを確認し、設計内容の検証に活用していただいています。また、授精業務や繁殖検診の場面では、システムの繁殖情報を利用して畜主との情報共有を図る授精師や獣医師も増えてきています。
 担当される業務によってシステムの利用方法は様々ですが、利用者からは「データ収集や加工に費やす時間を大幅に短縮できた」との評価をいただいています。忙しい支援者の皆様の時間や労力が「生産現場でのコミュニケーション」にシフトされることを期待してやみません。

■更なる進化を目指して
 リリース以降、皆様のご要望に沿えるよう、新たな機能や情報を拡充して参りました。
今年度には、乳中ケトン体情報の提供を開始し、潜在性ケトーシスが疑われる個体のスクリーニングが可能となりました。特にお勧めしたい情報に「周産期対策レポート」があり、経営ロスに直結する周産期管理のカイゼンに役立つ情報を掲載しています。
 バルク情報では、出荷毎の乳成分測定値やFFA(遊離脂肪酸)の提供も開始しており、飼料設計を担当される方にも一層満足いただける情報に進化しています。
 今現在の取り組みとしては、平成30年4月に検査サービスを開始した妊娠関連糖タンパク検査(PAGs検査)の結果反映やWeb申し込み機能を開発している他、診療データとの連携にも新たにチャレンジをしているところです。
 本システムを利用いただき、仮説・検証のサイクルを繰り返し実行することによって、生産性の向上はもとより、課題解決のノウハウを効率的に蓄積することも期待できます。

今後とも生産者や支援者の皆様に広くご活用いただけるよう、価値の高い情報提供に取り組んでいきたいと考えています。

講演資料はコチラ

2019年4月2日火曜日

酪農における光環境制御の効果とそのメカニズム

雪印メグミルク株式会社酪農総合研究所は2019年1月31日、酪総研シンポジウム「酪農現場の“カイゼン”を考えるⅢ -少額投資で生産性の向上を!-」を開催しました。




前回の第一講演に続き、今回は第二講演の要旨を掲載致します。



第二講演

演題 : 酪農における光環境制御の効果とそのメカニズム

演者 : 農研機構 畜産研究部門 畜産環境研究領域 飼育環境ユニット

     上級研究員 粕谷 悦子 氏












はじめに
 家畜をとりまく種々の飼育環境は、生産性の観点からはもちろんのこと、家畜福祉の観点からも最適に保たれることが望ましいが、酪農における光環境(例:畜舎の照明など)については、最適な光条件設定の根拠となるウシの生理反応におよぼす影響に関する科学的知見は多くない。今回は、光がシグナルとしてウシの生体内に入り、主に内分泌機能を介して乳生産や成長に影響を与える仕組みを念頭におき、酪農における光環境制御の重要性について考えてみたい。

1.畜産と光環境
 農業全体をみれば、大手家電メーカーなどが参入した「植物工場」で、光環境を精密に制御された環境で育てられた作物が既に消費者まで届いている。畜産においては、閉鎖型鶏舎での飼育が一般的な養鶏において光環境の制御が行われているものの、酪農においてはその技術の利用はまだ一部にとどまっている。光のシグナルが体内に入ったあと辿る経路は、鳥類とほ乳類では異なることもあり、まずほ乳類における光の作用がどのように「生産」までつながるのかを、基礎的な仕組みとして知っておきたい。

2.光の動物に対する作用
 光は眼の網膜から入力され、視覚性あるいは非視覚性のふたつの経路を通って脳に到達する。生産性に影響をおよぼす経路は主に非視覚性経路であり、特に脳の視床下部にある視交差上核(SCN)が、生体リズムの光による同調を司っている。SCNを介して、覚醒・睡眠、摂食、体温、血圧、心拍、内分泌などのリズムは光に同調するが、松果体により合成・分泌されるメラトニンがこの作用において重要な役割を演じている。

3.光によるメラトニン分泌の制御
 メラトニンは、睡眠誘導作用や抗酸化作用を持つだけでなく、視床下部や下垂体を介して、生産性(泌乳、成長や繁殖) に関わるプロラクチン(PRL)や成長ホルモン(GH)といったホルモンの分泌を調節することがわかっている。その分泌動態は、昼(明期)に低下し夜(暗期)に亢進するという特徴的なリズムを持つ。従って明期が長い(=長日)ではメラトニンの分泌量は減少する。逆に暗期が長い(=短日)では分泌量は増加する。

4.泌乳の日長応答
 メラトニンは、泌乳促進作用を持つホルモンであるPRLやGHの分泌を促進することで乳量の増加に関わっている。すなわち、長日条件下ではメラトニンの分泌が低下することでPRLやGHの分泌が促進され、乳量が増加する。ただし、日長が長ければ長いほど乳量が増加するということではなく、16〜20時間程度の明期が乳量増加効果には適切であると考えられる。一方乾乳期には、メラトニンの分泌を増加させる短日条件が次乳期の乳量を増加させる。それは、乾乳期が次乳期のための乳腺細胞の準備期間であり、乾乳期にメラトニンが増加することでPRLなどの分泌抑制が起こり、次乳期の乳腺でのPRL受容体の増加などの影響で乳量が増えると考えられている。
 また、泌乳の日長に対する反応は照度の影響をうける。メラトニン分泌抑制効果には照度依存性があるためである。牛舎における照明で、短日効果を期待するのであれば10 lx以下、長日効果を期待するのであれば300 lx以上といった照度に対する配慮も必要と考えられる。

5.光の波長と非視覚的作用
  家畜の生産性には、光の作用のうち非視覚的作用が主に関わっているが、この作用には光の波長の違いによる影響がある。特に、青色光(=ブルーライト、380-500 nm)は、他の可視光と異なる受容システムを持つことから、メラトニン分泌を介した種々の生理作用(PRLやGHなどの分泌も含む)に強い影響を与えると考えられる。近年普及が進んでいる白色LEDにはブルーライトが多く含まれているため、畜舎照明での利用を考える場合には、波長についての検討も必要となってくるだろう。

6.乳牛飼育における”光線管理”の必要性
 これまでは、暑熱対策などの理由により開放式の畜舎が主流であり、電気料金の負担も考えると、照明時間の延長などの技術を導入することは難しかったかもしれない。近年はLED照明の普及によりコスト面での問題が減少したため、光の「量」を補うテクニックは導入しやすくなってきた。一方、ブルーライトの影響が明らかになってきたこともあり、人工照明の利用にあたっては、光の「質」についても検討することが必要となってくるだろう。また、ウシの生育ステージによって、適切な日長時間や照明条件が違うことも徐々に明らかになってきていることから、群単位での照明条件の設定といった精密な光環境制御技術の開発が待たれるところである。そのためには、実験等で科学的根拠を見つけていくだけではなく、酪農現場からのフィードバックを受け、さらに知見を蓄積していく必要があるだろう。

2019年3月6日水曜日

牛の行動を基に施設や飼養管理を見直す ~牛も人も幸せに~

雪印メグミルク株式会社酪農総合研究所は2019年1月31日、酪総研シンポジウム「酪農現場の“カイゼン”を考えるⅢ -少額投資で生産性の向上を!-」を開催しました。




その講演要旨および意見交換の内容を今回から4回連載にて掲載いたします。


第一講演

演題 : 牛の行動を基に施設や飼養管理を見直す ~牛も人も幸せに~

演者 : 酪農学園大学 農食環境学群 循環学類 家畜管理・行動学研究室

    教授 森田 茂 氏














1.家畜に配慮した飼養管理
 家畜の要求を理解するのに、家畜行動の観察・解析はきめて有効な手段である。行動を直接観察することはもちろん、家畜が利用した施設や自身の体に残した痕跡を調べ、利用の仕方を類推したりする。
 家畜の状態把握に活用されつつある様々なセンサーを利用して、家畜から発せされるサインを読み取り、判りやすく表示したり、直接観察では困難な、日内パターンの変化を精度良く把握できる。さらに、搾乳された牛乳の成分から家畜の生理的状況を推測したり、家畜の体格変化などの情報をあわせれば、飼養管理の改善は確実なものとなる。
 家畜の要求を適切に判断して、それに応じた管理を組み立てるのが「精密酪農」(スマートファーミング)的手法である。一方で、環境変化の多い屋外の放牧地で、群飼養をするような、多様性に富んだ環境を家畜に提供し、何を選ぶかは家畜の選択にゆだねるといった飼養管理手法もある。どちらの管理手法を用いるにせよ、乳牛の行動を理解することは、家畜の状態確認と家畜に配慮した飼養管理のために必要となる。
 家畜の行動は、飼育環境改善に向けた重要な道具であり、管理者にとっての楽しみでもある。ときどき「行動を眺める」から、継続して「行動を観察して、評価する」へと進展すれば、飼養管理改善のためのPDCAサイクルは、継続的に動き出す。

2.乳牛の休息行動と飼養管理
 乳牛の休息姿勢は、横臥(後躯)と伏臥(前躯)の組み合わせで後躯片面への荷重が高い。このことから、同一側面を下にしたまま横臥持続できる時間は1~2時間程度である。乳牛の1日当たりの横臥時間は平均12時間なので、少なくとも6回は起立・横臥動作を行うことになる。こうした特徴もあり、乳牛にとって快適な休息環境には、起立・横臥動作が容易で、横臥時に床が硬すぎないという2つのポイントがあげられる。
 乳牛は起立動作時に、前方に頭部を伸長し、両後肢を同時に伸ばし、前肢は左右片方ずつ、前方に踏み出しながら伸長させる。この動作様式が、最も「自然」であり、動作時間が最も短い。しかし、いかに「乳牛を配慮した飼養環境」であっても、この動作を繋ぎ飼い牛舎やフリーストール牛舎で実現させることはできない。このうち、繋ぎ飼い牛舎では前肢の伸長は、1番目の前肢から前方に踏み出すことは制限しなければならず、フリーストール牛舎では2番目に伸長する前肢は踏み出させないようにしなければならない。これは、牛舎の構造上および牛床の衛生上、不可欠な動作制限である。
 不可欠な制限の範囲を超えて、起立・横臥動作時の頭部伸長がうまくいかない乳牛や、繋ぎ飼い牛舎で起立動作の際に前肢を飼槽内に踏み込んでしまう乳牛を見ることも多い。飼槽への踏み込みは、乳牛起立時の前肢のすべりや、給与飼料の前肢による汚染などの原因となる。これらは、牛床利用の仕方(パターン)にも影響する。現代のスマホにはビデオカメラ機能があり、動作解析を行える入手が容易であるアプリも多い。スマホ世代でなくとも、牛の寝床の各所にある痕跡は、こうした不都合な状況の証拠になる。
 床の硬さを客観的に測定する装置が、酪農学園大高橋圭二氏により制作され、精力的に研究が行われた。牛床資材ごとの検討や、敷料の役割の解明などが明らかになり、休息環境の改善は急速に進展した。
 牛床内の構造物(ブリスケットボード・ネックレール・各種隔柵)施設や、牛床のサイズは、横臥位置や横臥時の姿勢を制御している。これらは排糞位置の制御を通じ、牛床の衛生的環境にも寄与している。適切でない牛床施設は、起立動作の困難さなどの不快さ以外にも、様々な影響を及ぼすことになる。断尾という乳牛身体の切断行為が、牛体の汚れや、乳房炎の発生、乳質改善には役立たないことは、すでに科学的に証明されている。意味のない身体損傷行為をやめることは、乳牛における飼養管理改善の出発点である。

3.乳牛の採食行動と飼養管理
 高い生産性が求められる家畜では、健康を維持し、生産量を向上させるため、摂食を阻害する要因をできるだけ排除したり、短い時間で多くの飼料を採食となるように飼養環境を整えることがある。動物にとって、行動の結果のみが重要なのではなく、行動発現自体も重要な意味を持つ。採食行動は、「栄養素を補給する」だけの行動ではなく、様々に付随する行為が発現できる時間である。
 牛には牛という種に特有の食物や、それを摂取する器官(口や舌)の形状や使い方があるから、管理者が行う飼料給与方法や乳牛が使う飼槽構造は、乳牛の特徴に配慮して計画され、実行される。これがうまくいっているのか、改善が必要なのかは、乳牛の生産性や、健康維持、さらに利用の方法(行動)により判断される。
 乳牛の採食行動は、「頭を下げて、舌を使い口腔に飼料を取り込み(喫食)、頭を上げて飼料を咀嚼・嚥下する」動作の連続である。舌を使うことから、地面に生える牧草は10~15cmの高さが食べやすいようである。サイレージのような細断された飼料では、斜面形状があると口腔に取り込みやすい。また、混合した飼料から濃厚飼料を選別するため、飼料を攪拌したり撥ね上げたりする。
 こうした動作もあり、牛が採食可能な範囲の外に、飼料が移動する。この動作による飼料の移動を防止するため、飼槽構造を工夫することがある。また、管理者が範囲外に移動した飼料を、採食可能範囲内に戻す、餌寄せ作業を繰り返し行うことで対応することもある。給与した飼料の移動は、フラット飼槽で激しいことや、群飼養される乳牛では自由採食が基本であることから、こうした場合に、餌寄せ作業を自動化することも多い。
 採食行動を終日観察することは困難であるから、飼料給与を基点としたある時刻に、同時採食頭数を観察することで、牛群の日内パターンを推定したり、乳牛の体型上の変化(ボディコンディションスコア、ルーメンフィルスコア)から個体ごとの採食時間を類推したりすることがある。最近では、センサーを活用し採食パターンの把握や採食時間の記録が可能となっている。あわせて反芻センサーから、粗飼料採食の変化を類推することができる。家畜同士の社会的関係については、センサー開発は不十分で、家畜管理上の利用もはっきりとしていない。実際のところ、牛のことで、私たちの知っていることは僅かしかない。まさに、牛達の「知られざる生活」そのものである。

4.行動発現の意味を知り、飼養管理に役立てる
 「驚き」、「喜び」や「恐怖」などの感情的変化は、行動的、身体的あるいは生理的変化が併存することで、情動として示される。このうち「喜び」に関わる情動を快情動、「恐怖」などに関わるものを不快情動と呼び、大脳辺縁系扁桃体が深く関わっている。特に、快情動の仕組みは、脳内の報酬系の発見で明らかとなってきている。中脳腹側被蓋から発した神経核は、大脳辺縁部側坐核や前頭連合野あるいは視床下部などに伸び、ドーパミンを分泌する。側坐核などはこのドーパミンを受け取り、心地よさを感じる。
 私たちの生活でも「喜び」は、多くの行動発現の起点である。「恐怖」に基づく行動的習慣は「脅し」がなくなれば消えてしまうが、「喜び」経験は、報酬がなくとも「次こそ」といった期待を込めて、「ハマってしまう」、つまり依存的習慣になることが多い。こうした反応は乳牛でも認められ、個体差があり、「ハマル」レベルの違いも大きい。
 行動の発現や継続には、乳牛個体が「どう思うか」という情動が深くかかわっており、乳牛の自発的行動に基づく飼養管理システムでは、特に注目される。しかし、こうしたことへの科学的知見はそれほど多くなく、経験に基づく判断が主流である。牛のことを本当に理解するには、まだまだ研究が不足していることを実感する。

5.最後に
 家畜は約1万年前から私たちとの歩みを始めた。いずれの家畜も、それを越える数百万年の長い期間を、環境への適応のために費やしている。家畜化・選抜の過程で、さまざまな行動的変化が起こり、家畜としての飼育環境には制約があり、その結果、私たちが観察する家畜である牛には牛の、動物種としての行動的特殊性が存在する。
 本来、動物の行動は、「何によって行動が起こるか」(行動の原因)と「行動の結果がどう動物の生存や生殖に影響するか」(行動の機能)という面から解読する。このうち「行動の原因」は、時間尺度の違う3つの観点でとらえることができる。すなわち、①極めて短い時間内での行動発現(摂食、休息あるいは繁殖)、②行動解発や学習などに代表される個体の成長を通じた行動の変容、さらに③世代を重ねた行動の進化である。「行動の機能」は、その行動の目的であり、適応的意義を表し、行動の原因(至近要因)とあわせ、ティンバーゲンの4つの課題と言われる。
 乳牛行動の観察事例を見たり、管理者の判断を聞く際には、その観察事例が4つの課題のいずれを特徴的に表現しているのか、管理者の判断は4つの課題のどれに重きを置いているのかといったように考えると、そうした判断と現実との一致が取りやすくなる。
 もっとも、「ティンバーゲン」には頓着せず、乳牛が様々行う行動や、様々に見せる表情を、ワクワクしながら愛でることはとても楽しく、「ハマ」ってしまう。継続的な観察は、「家畜の行動を基にした施設や飼養管理を見直す」極意である。つまり、楽しく牛を愛でることが、人も牛もHappyな飼養管理改善に向けた正しい方向であると、家畜管理・行動学研究室の卒業生を見ていて強く感じる。

2018年5月8日火曜日

カウコンフォートの経済効果と未来

雪印メグミルク株式会社酪農総合研究所は2018年2月1日、酪総研シンポジウム「酪農現場の“カイゼン”を考えるⅡー牛づくりにおけるロスとその対策ー」を開催しました。


第一講演要旨および第二講演要旨に続き、今回は第三講演の要旨を掲載致します。

第一講演要旨…高泌乳牛の繁殖成績の現状とその改善について考える
第二講演要旨…母牛と子牛のための分娩管理

第三講演

演題 : カウコンフォートの経済効果と未来

演者 : 北海道農政部生産振興局技術普及課畜産試験場技術普及室

    上席普及指導員 椋本 正寿 氏















1.カウコンフォ-トの全体像

カウコンフォ-トは、牛の飼養環境の機能である。 飼養環境は、給餌環境を定義する物理的要素と社会的要素の両方で構成されている。 乳牛の飼養環境は、自然な行動の時間配分を実行する能力に影響を及ぼす。最適な環境と栄養とを組み合わせることで、乳牛の時間配分の要求が満たされ、摂食行動や飼料摂取量が最適化され、生産性と健康が向上する。 飼料給与、反芻、および休息の相互作用は、生産性、健康、福祉にとって重要である。 ル-メンの充満と生理学的メカニズムの統合は、飼料摂取量と生産性を制御するが、飼養環境は、乳牛の行動および飼料の産乳反応に対し強力な調節的効果が働く。

2.牛舎環境と牛群の能力
飼養環境の定量的測定で、同じ遺伝能力、同じTMRを給与した牛群の評価をした。これらの酪農場での11頭当たりの平均乳量は29.5kgで、範囲は20.433.5kgであった。 この乳量のバラツキの44%が栄養であった。栄養以外の因子(飼養環境)は、乳量バラツキの56%を説明した。 最も重要な飼養環境要因は、残飼量、飼料の掃き寄せ、飼養密度である。

3.カウコンフォ-トの経済効果
1頭当たりのストール(利用可能なストール1日当たり0.77kg)、残飼量(牛1頭につき1.42.3kg)、飼料の掃き寄せ(牛1頭当たり3.9kg)はすべて牛乳生産と正の関連がある。 飼養環境は栄養と同様に重要である。
ペン以外の場所に居る時間を最小限に抑えることは、最適な時間配分の鍵である。 休憩のための時間配分の要求を満たすことは、より高い乳量(12.33.6kg)をもたらし、跛行の発生率を低下させる可能性がある。
カウコンフォ-トが改善され、休息時間が1時間増加するごとに乳量が0.91.6kg増加する。また、休息時間が増加すると採食時間、反芻時間が増加し、佇立時間が減少し、蹄の出血と跛行が減少する。
生理的変化としてコルチゾル応答の減少、成長ホルモンの増加、乳腺と妊娠牛の子宮角の血流量が増加し、結果として廃用率の減少により生産寿命が長くなる。
慢性的に休息時間が奪われた場合、飼料の採食時間と摂取可能量は31の比率で失われる。起立時間が増加すると、採食時間 が21の比率で失われる。休息行動が制限されている場合、他の行動より休息が優先される。
ストールの快適性を改善することは、産乳量を改善し、淘汰率を低下させ、体細胞数を減少させ、牛群の跛行状態を改善する。
飼養環境の最適化は採食行動を促し、乾物摂取量と産乳量の増加につながる。乾物摂取量1kg は乳量2kgに相当する。
初産牛と経産牛を一緒に飼養すると、休息活動、反芻行動、産乳量が減少する。産乳量は約10%減少する。飼養密度が増加すると過密レベルが低くても(113%)、悪影響がさらに顕著になる。過密状態の最大の経済的損失は、長期的な健康および繁殖成績の低下であるかもしれないが、ある条件下では、乳量、乳質および乳成分の変化が起こる可能性がある。飼養密度が約120%では休息が減少し、能力の低下が予想される重要なポイントであると考えられる。
暑熱ストレスの軽減はTHI68から始まり、乾乳期と泌乳期で重要である。これにより乾物摂取量、産乳量(1日当たり平均3.5kg)、跛行、移行期の改善を図ることができる。牛の快適性は積極的な暑熱ストレスの軽減が必要である。
跛行は、毎年少なくとも36%の乳量減少、5%の廃用率増加、そして受胎率の低下をもたらす。特にパ-ラ-における穏やかな扱いにより、乳量が3.513%増加し、牛の痛みに対する感情移入が大きくなると、産乳量が約900kg増加する。 穏やかな扱いのアプローチには費用がかからない。

4.カウコンフォ-トの影響評価
100頭(搾乳牛・乾乳牛)  乳価90円/kg、 飼料費50円/kgの条件では乳量減少(暑熱ストレスによる乾物摂取量の低下)で510,000円、乳量減少(遺伝能力の高い牛の淘汰)で904,000円、分娩間隔の長期化で315,541円、淘汰牛増加と販売頭数減少で950,000円、総影響額合計が2,679,541円と試算される。この他に診療費用が加算される。

5.カウコンフォ-トの未来
乳牛が安定した社会集団に飼われ、最適な環境が自由な活動を提供し、彼らの正常な行動を最もよく支える環境で飼われることが、遠くない将来には一般的になるかもしれない。
酪農家は牛群の社会的ニ-ズと物理的ニ-ズの両方に適応した牛舎と管理方法を採用している。
海外では、アニマルウェルフェアの取組みが認証化され、食品の優位性を示す一つの材料となっている。
EUでは、共通農業政策の一環として、アニマルウェルフェアに配慮した飼養方法に転換する農業者が支援され、畜産物のブランド化が進められている事例がある。
北米では、アニマルウェルフェアに係る法律を制定する動きや、食品企業の販売戦略の一環として、アニマルウェルフェアを重視する消費者への対応から、農場や生産者団体等が飼養方法を転換する取組もみられる。
アニマルウェルフェアの国際基準は、OIE(国際獣疫事務局)より順次示されており、日本もその基準に準拠し、公益社団法人畜産技術協会によって、「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」が策定されている。
 北海道酪農・肉用牛生産近代化計画において、供用期間の延長や子牛の死亡率の低下など、家畜のベストパフォーマンスを発揮させる手法の一つとしてこの「飼養管理指針」に配慮した飼養管理を推進している。「安全で高品質な乳製品及び牛肉の安定供給の役割と責任を果たす」ことや、「北海道及び地域の重要な産業として持続的な発展を遂げる」という目的を達成するために、「飼養管理指針」を要件の一つとしている畜産のJGAPの活用なども含め、生産現場で対応し得る飼養管理の推進が図られている。

2018年4月3日火曜日

母牛と子牛のための分娩管理

雪印メグミルク株式会社酪農総合研究所は2018年2月1日、酪総研シンポジウム「酪農現場の“カイゼン”を考えるⅡー牛づくりにおけるロスとその対策ー」を開催しました。


前回の第一講演要旨に続き、今回は第二講演の要旨を掲載致します。



第二講演

演題 : 母牛と子牛のための分娩管理

演者 : 株式会社 石井獣医サポートサービス

    代表取締役 石井 三都夫 氏





 







 元気で生まれてくるはずの新生子牛の約8%が分娩事故で命をなくしている。今回あえて「…のための」としたのは、分娩管理が管理する人の都合により行われていることを憂慮しているからである。母牛や子牛のための“カイゼン”とは何かを考えながら分娩管理技術を解説する。
実際に近年の乳検データ上では難産は減少し、一方で死産(分娩時の子牛の死亡事故)は年々増加している。これは、酪農場が大型化多頭化する中、農家あるいは従業員が分娩に立ち会う機会が減っていることが背景にある。無監視のまま分娩が進行しない(広い意味の難産である)で生じる死産や、せっかく娩出されても、分娩牛舎の構造や混雑などの劣悪な環境から生じる新生子死が後を絶たない。また、一方では、難産や死産への警戒や牛舎における作業上の都合による早すぎるタイミングの助産は、かえって難産や死産の増加につながっている。
今回は、ヒトのお産とウシのお産の違いについて考えながら、ウシにはどのような分娩管理上の問題があるのか?分娩事故率の低減のためにはどのような管理が求められるのかを考えてみよう。新生子牛とヒトの新生児との大きな違いは母から子への受動免疫の移行に関する機構の違いであろう。ヒトは生まれながらにして血液を介してすでに免疫が移行している。ウシは生まれた時点では免疫の移行は行われておらず、元気に立ち上がって、初乳を自ら吸引することで初めて免疫が移行する。すなわち、生まれた子牛は元気でなければならない。もう一つ重要なことは、免疫学的に無防備で生まれた子牛たちや母牛の子宮感染症を予防する上で、分娩房は可能な限り清潔でなければならない。自然分娩で生まれた子牛は元気であり病気をせずにすくすくと育つ。分娩管理上の基本は自然分娩を見守ることである。自然分娩で生ませるためには、寝起きしやすく、清潔で、広く、単独になれる分娩環境を提供することが必要である。やむを得ず劣悪な環境で分娩させる場合には、しっかりと分娩観察を行い、適切なタイミング(足を出してから初産牛2時間、経産牛1時間)で、介助の影響を最小限にしながら助産することを心掛けたい。
すべてのウシとヒトが幸せになれますように…

講演資料はコチラ

2018年3月8日木曜日

高泌乳牛の繁殖成績の現状とその改善について考える

雪印メグミルク株式会社酪農総合研究所は2018年2月1日、酪総研シンポジウム「酪農現場の“カイゼン”を考えるⅡ -牛づくりにおけるロスとその対策-」を開催しました。



その講演要旨を今回から3回連載にて掲載いたします。


第一講演

演題 : 高泌乳牛の繁殖成績の現状とその改善について考える

演者 : 酪農学園大学 農食環境学群 循環学類 家畜繁殖学

    教授 堂地 修 氏














 乳牛の繁殖成績は、わが国を含む世界各地域において約30年以上にわたって低下し続けてきた。繁殖成績低下の具体的内容としては、分娩後の初回受胎率の低下、それに伴う空胎日数および分娩間隔の延長、長期不受胎牛および淘汰牛の増加等が主たるものである。乳牛の繁殖成績低下の原因は、泌乳能力の向上を追及した結果であると言われることが多い。一見すると乳量の増加と受胎成績の関係を見るとそのようにみえる。しかし、乳牛の繁殖成績低下の原因を乳量増加のみに焦点を絞って考えてみても繁殖成績の改善の方策を見出すことは簡単でない。農家1戸当たりの搾乳頭数は、昭和60年代の50頭台から平成20年代には100頭台に増えている。1戸当たりの搾乳頭数の増加にともない、フリーストール牛舎やTMRの導入など飼養管理の効率化も進み、個体から群へと飼養管理方法は変化してきた。このような中、牛群の中には個体の能力を十分に発揮でない牛も少なからず存在していると思われる。さらに乳量増加と同じように飼養頭数の増加に従うように経産牛の初回受胎率は低下してきた。

 一般に繁殖成績への泌乳の影響のない育成牛では初回受胎率が最も高く、人工授精回数が増えるにしたがい低下し、4回目以降は一段と低くなる。演者らの受胎率調査では、経産牛では、初回が2回目以降の人工授精の受胎率に比べて最も低いことが分かっている。このことから今日の経産牛の受胎率については、さまざまな観点から検討する必要がある。

 乳牛の繁殖成績を改善するためには受胎率の向上が重要であり、そのためには繁殖生理的な検討だけでは難しく、栄養管理との関係について考える必要がある。一方、最近の報告によると国内の乳牛の空胎日数の最頻値は78日であり、多くの牛は分娩後60日前後に初回人工授精が実施されて受胎していると思わる。このことは、受胎が大きく遅れる牛が多いことを示しており、このような牛に重点を置いた対策を検討することも経産牛の繁殖成績の改善において重要であると思われる。

 高泌乳牛では、分娩前後の栄養状態が次回の受胎成績に強く影響することが良く知られている。一般に乳牛は分娩前から採食量が減少し、分娩後しばらくは採食量が減少したままの状態にあり、体重が減少し、ボディ・コンディション・スコアが低下する。そのような状態にあっても、今日の乳牛は乳量を増やし続け、ピーク乳量到達が早い。一方、乳量増加に見合う十分なエネルギーを採食(飼料)によって賄うことができない牛が多く、このような牛は繁殖機能の回復が遅れる受胎も遅れる。結果的に繁殖成績の低下が顕著になるとともに、健康状態にもさまざまな悪影響が発生する。そのため、群管理における栄養管理と繁殖管理については詳細な検討が必要である。特に、牛群の規模が大きくなりつつある今日にあっては重要である。

 最近の酪農業界は、乳価や個体販売価格の上昇など明るい話題もあるものの、依然として酪農家戸数の減少、担い手不足や生産乳量の増加など重要な課題が多く存在する。このような中、乳牛の繁殖成績の改善は重要かつ喫緊の課題である。しかし、繁殖成績の改善は繁殖技術を駆使しても簡単に解決できなことはこれまでの経験からも分かっている。そのため、育種、栄養、飼料生産、繁殖など、乳牛の飼養管理に関する全てについて、もう一度見直す必要がある。本講演では、演者がこれまで得てきたデータを紹介しながら、乳牛の繁殖成績、特に受胎成績に影響する要因について焦点を当てて検討してみたい。

講演資料はコチラ