コラム33 『コメ作況指数の廃止報道で思ったこと』

 [酪総研コラム33ー2026年6月掲載]

                『コメ作況指数の廃止報道で思ったこと

 2025年6月16日、時の農林水産大臣・小泉進次郎氏がコメの作柄を示す「作況指数」を今秋から廃止すると表明した。その報道を見たとき、少なからず戸惑いを感じずにはいられなかった。なぜなら、我々の職場でも牛乳生産費や作況調査(牧草・飼料作物)など数々の農林水産省が公表する統計資料を利用しているため、このコメ作況指数の廃止をきっかけに他の農林水産統計の廃止や簡略化があり得るのではないかとの考えが頭をよぎったからである。

 

コメの作況指数は単位面積当たりの収穫量について過去30年間の収穫量の傾向をもとに豊作か不作かを判断する手法で、1956年から70年間にも渡って調査し続けられてきた。このタイミングで廃止を決めたのは、“令和のコメ騒動”といわれる一連の騒動のなかで、近年の気候変動や農業技術の進歩が作況指数の算出手法と合わなくなってきたのではないかということ、そして生産・流通の現場から「作況指数が実感と違うのではないか…」と疑問視する声が上がっていること、などの意見をもとに統計の見直したという。そして作況指数は廃止するが、作況指数と共に公表してきた水稲収穫量調査は人工衛星データや人工知能(AI)などのデジタル技術を用いて精度を向上させる、とマスコミ各社は報道している。

 

このコメ作況指数廃止理由にある「調査結果が実感と違うのではないか…」といった疑問は、正直、我々が酪農現場で繰り返し行っている牧草・飼料作物の植生調査や収量調査においても時折あることで、その度に悶々とした気持ちに悩まされることがある。これは単に調査員の技術差や主観の混入疑い、はたまたサンプル数の少なさが調査の精度を低下させていると指摘されればその通りだが、これを人工知能(AI)やデジタル技術を活用すればまったく誤差が生じない、誰もが納得できる正確な結果になるのであろうか。現状のデジタル技術の普及状況を見る限り、もう少し時間的猶予が必要なのではないかとも思える。また、現場で日々調査を繰り返している立場から言わせてもらえば、まずは調査によって得られるデータの連続性の担保が肝心であり、そのなかで読み取れる特徴があるかもしれないし、また他の連続的データと組み合わせることで見出せる傾向があるかもしれない。そう考えると長年に渡り調査され続け、慣れ親しんだコメ作況指数の廃止決定はやや性急に思えるし、現場の混乱を招かぬようもう少し丁寧に議論を進めるべきではなかったのかとも感じる。

 

ところが、この晴天の霹靂のように思えたコメ作況指数廃止の話もよく調べてみると、以前から農林水産統計の見直しが議論されていたことがわかる。2022年(令和4年)、総務省統計委員会企画部会は、「令和4年度ワーキンググループ会合(基本計画改定に係るWG)」を開催。これは総務省主導のもと、各府省が概ね5年ごとに見直す基本計画を審議する会合で、農林水産統計は経済統計を取り扱う第2ワーキンググループ会合にて審議されている(2022年8月8日開催)。公表されているこの会合の説明資料および議事概要から農林水産統計(特に作物統計調査の見直しについて)の審議内容をかいつまんで見てみると、①作物統計調査はマンパワーに大きく依存した調査で現場職員の大きな負担となっている。②また、統計調査として粒度が細かすぎるのではないかという議論もあり、農水省としても必要性が低下した調査項目は削減することも認識している。③今後は統計の品質を確保しつつ先進技術を活用し調査業務の簡素化・効率化を図る、といった内容であった。

 

 このようにコメ作況指数を含めた農林水産統計は作況指数廃止を発表する3年前からすでに見直し議論がなされていたのである。ところがその理由は、ワーキンググループ会合では“現場職員の負担軽減”であるのに対し、今回の報道では“気候変動・農業技術の進歩”や“調査結果と現場の実感の違い”とあり、双方で内容が異なる。これは単に筆者の調べ方が足りないだけかもしれないが、コメ騒動で過熱気味の世間をクールダウンさせるため聞こえのより理由にすり替えた(忖度した)うえで、このタイミングで公表したのではないかと思わず邪推してしまった。

 

 それはさておき、コメ作況指数廃止の報道は寝耳に水だった農業関係者もきっと多かったことだろう。その混乱ぶりは当時の各新聞の社説や記事を読んでも窺えた。しかし前述のとおり、その議論はずっと前からなされており、しかもその議論の論旨もちゃんと公表されているのだから、「そんなの聞いてないよー」と言ったところで「ちゃんと情報収集しましょうね~」と言われてしまえば、ぐぅの音も出ない。これも情報過多社会の弊害なのかもしれない。

 

 世は諸行無常。そんな壮大なスケールの話をするつもりはないが、今回の「コメ作況指数の廃止」のように、我々が仕事や生活をするなかで、今まで当たり前だった物事が突然変化したり、無くなったりすることは多々あり得る話である。そんなとき、“想定外だった”と落胆したり、嘆いたりすることもあるだろう。ところがユダヤ人にはこの“想定外”という概念が無いという。ユダヤ人はどんな災難や危機が起きても、それを想定内と受け止めパニックを起こさず対処する考え方を、ヘブライ聖書やタルムードにまつわる膨大な説話そして過去の辛い境遇のなかで学んできたのだという。そんな何事にも動じず困難を乗り越えることができる思考や発想こそがユダヤ人の強かさであり、ノーベル賞の20%を占め、多くの著名人や成功者を輩出し、世界的に有名な企業を作り上げるに至ったのである。そんなユダヤ人的な思考や発想を身に付けることはあらゆる出来事にも動じず柔軟に対処するため、そして波乱万丈な人生に狼狽しないためにもきっと有益であろう。そんな考えが脳裏を巡った今回の「コメ作況指数の廃止」報道であった。

(コラム執筆:柳瀬研究リーダー)

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