投稿

コラム25 『NO TENKIN, NO LIFE.』

  [酪総研コラム25 ー2025年9月掲載]             『 NO TENKIN,NO LIFE. 』 転勤を敬遠する傾向が強くなっているそうだ。 20~30代の若い世代は7割以上が転勤を嫌がっているという。就活学生の3割以上が転勤の多い企業には行きたくないという調査結果も目にした。ライフスタイルが変化し、勤務地が頻繁に変わる事に抵抗を感じている人が多くなっているらしい。 我々昭和生まれの会社員は異動の辞令が出たら転勤するのが当たり前、転勤族という言葉があるように日本各地で仕事をしてきた。 時代が変わってワークライフバランスが注目され、個人の価値観が尊重されるようになってきた。また、リモートワークや在宅勤務が増加し、出社しなくても仕事が出来る環境が整ってきている。 雇用体系が変化する中で、企業の従業員エンゲージメント向上への取組みが重要視されている。転勤をきっかけに離職する社員が増えていることから、これに歯止めをかけるために転勤制度を見直す企業も出始めていると聞く。 転勤は時代遅れになっていくのだろうか。私自身、北海道、東日本、西日本と 10 回以上の転勤、単身赴任も 2 回経験してきた。それぞれの地域特性があり、知識や経験を積み重ねる事が出来た。関係先の仕事相手との人間関係を築き、様々な経験が人生の肥やしになってきたと思う。 また、私事では各地の名所旧跡に足を運び眼福を得、酒場を探訪しほろ酔い、ご当地の味覚も楽しんできた。その土地の風土や文化に触れる事が出来たのも転勤のお陰様だ。もし転勤の無い仕事に就いていたら、こんな経験は出来なかったし人生がまるで違っていた。 今の時代、メディアやインターネットで何処に居ても様々な情報を手に入れる事ができる。しかし、実際にその土地に住み体験する事には敵わない。転勤は必ずしもネガティブなものではなく人生において価値のある経験が出来る機会になる。私は転勤が無かったら人生の半分以上を損したのではないか、日本全国で仕事が出来て楽しい会社員人生だったと定年退職間近の昭和生まれは顧みているのである。 さて、これから人生二周目は何をしようかな・・・。

コラム24 『令和の米騒動を見て想う』

  [酪総研コラム24 ー2025年8月掲載]               『令和の米騒動を見て想う 』   ある日テレビを見ていたら米を買い求めて長い行列ができているのが映った。どこの国のことかと思ったら日本じゃないか。物資の無い時代でもあるまいに、今の日本で米を買うために行列ができるなんて何かが間違っている。 日本人にとって米は食生活の中心にあり生活に欠かせない存在で、神話の時代から受け継がれた神聖な作物である。日本の文化・信仰、日本人の精神と深くつながる存在である。主食であるばかりではなく、江戸時代までは米は経済の中心であった。かつては米が不足したり価格高騰したりすると米騒動や打ちこわし、政権交代までも起きた。大正時代になってからでも価格が高騰したことで米騒動が起きた。 コメ不足や価格高騰が日本人の激しい怒りを買うということに対して、今の政府・農水省は極めて無頓着であったために、現代版米騒動は起きるべくして起きたのだと思う。私は、米の問題は経済や農政問題としての理解以上に、精神文化をなおざりにしたため起きたのだと理解するほうが分かりやすいのではないかと感じている。 10 年ほど前のことになるが、小売店の棚からバターが無くなり、社会問題となったことがあった。統計データを分析してみると、これにはいろいろな要素が絡み合っているとはいえ、供給量が減少したことで業務用国産バターの販売制限があり、そのしわ寄せが家庭用バターに及んだ、つまり小売店での不足の主因は、瞬間的に家庭用バターの販売量が急増して流通量・流通在庫が減ったことによると考えられた。 昨年から米でも同じようなことが起きたのだろう。消費者は、現状では不足感がなくても今後不足するかもしれないという情報を得ると、まだ余裕があるにも関わらず店頭にあるなら買っておいたほうが無難だという意識が強くなる。このことは消費者心理として理解できないこともないが、その結果として一瞬で流通量・流通在庫の不足が起き、昨年夏には店頭で欠品し、更には価格が高騰したのだ(投機目的で買いだめや売り惜しみ、転売目的の業者の存在も噂されてはいるが…)。実際に、農水省が公表している「スーパーでの販売数量・価格の推移」を見ると、昨年8月に販売量が急増し、その頃から価格が上昇し始めていることが分かる。 巷では族議員...

コラム23 『外国人入国者数の今』

イメージ
  [酪総研コラム23 ー2025年7月掲載]  『外国人入国者数の今 ~続・コラム7「インバウンド需要の回復に期待を寄せる」 』   新型コロナウイルス感染症の国内初感染から3年が経過した 2023 年4月、再び外国人入国者数が増え、是非日本の牛乳・乳製品の美味しさを知ってもらい、需要拡大の牽引役となって欲しいという願いから『インバウンド需要の回復に期待を寄せる』というコラムを掲載した( https://rakusouken-siyou.blogspot.com/2023/04/blog-post.html )。当時の外国人入国者数(特例上陸許可者数を含む)は 2019 (令和元)年の 3,614 万人から 2021 (令和3)年の 77 万人まで急減し、 2022 (令和4)年には 468 万人へ若干の回復傾向が見えた時だった。 あれから2年、 2019 年にテレビでよく聞いた「爆買い」といった言葉はあまり聞こえなくなったように思えるが、改めて外国人入国者数の推移を調べてみた。 2025 年 3 月 14 日に出入国在留管理庁から公表された、「令和6年における外国人入国者数及び日本人出国者数等について」に掲載されている「外国人入国者数・日本人出国者数等の推移」(第1図)によると、 2024 (令和6)年はなんと 4,034 万人という過去最多を記録していた。参考値として記載されている訪日外国人旅行者数(観光庁公表値)も 3,687 万人で過去最多である。 過度に旅行者が集中するとオーバーツーリズムといった弊害があるかもしれないが、せっかくここまで外国入国者数が戻ってきてくれているのであるから、どうしても牛乳・乳製品の需要増を期待せざるを得ない。 米の生産における過去の減反政策しかり、コロナ禍での生乳生産抑制しかり、日本の農業は需給緩和時の対策が入口(生産側)を縮小させる方策に寄りがちである。しかし、土地、生き物、気候、時間を相手にした産業である農業は「今年抑えた分を来年に上乗せして作る」といった生産能力のキャリーオーバーはできないのだから、生産抑制策をとると必ず長期間で影響が出る。ましてや酪農は牛のライフサイクルと共にあり、回復に長い時間が必要な農業である。農業は平時から出口(消費側)の対策を考え続けなければならない。だからこそ、繰...

コラム22 『ゴルフボールをまっすぐに打つ方法②』

  [酪総研コラム22 ー2025年6月掲載]              『 ゴルフボールをまっすぐに打つ方法② 』     ゴルフボールをまっすぐに打つために、クラブのフェイスをいかにボールにフラットに当てるかを考え、グリップを左手の親指をクラブに沿って平行、そして真上に、右手の親指もクラブに沿って左の親指の真上に持ってきて、インターロッキングで構え、左と右の親指を一直線(体に対して垂直)にして、ボールを打つ 30 センチ手前から売った後 10 センチの間、その垂直を常に維持してスイングをしていると昨年の3月、本コラムに書いた。  結果、シーズン初めは程よいチーピンとなり、球筋がドローとなって上々の出来だったのだが、だんだん左への曲がりが強くなって二進も三進もいかなくなった。何事にも上手い人と下手な人がいるが、ゴルフの上手い人というのは、打ち方は様々だけれども、ちゃんとボールをミート出来るのである。当方は後者で、今回は右手の親指と人差し指に力が入って、進行方向への右手のコックを止められなくなってしまった。  ということで、現在右手のグリップは中指、薬指、小指でしっかり握り、親指と人差し指は握らず添えるだけにしている。そしてクラブフェースをボールにバチンと当てるというイメージだけを持って、クラブを振ることにしたら、ボールをミート出来る確率が上がってきた。昨年はボールをまっすぐに打つということを、グリップをどうするかによってやってみようとしたのだが、今年はイメージをしっかり持ってフェイスをフラットに、それに加えてバチンとボールに当てようと練習してみた。ドローボールは出なくなったが、今程よいチーピンとなって、まっすぐのボールも出始めている。結果的にグリップの両親指の重ね具合は昨年とあまり変わらないのだが、うまくミート出来た時はハンドファーストになっているように思う。下手は下手なりにチャレンジを続けていきたい。  ゴルフ場は自然に優しいと言うつもりはないが、ゴルフ場に行くとエゾシカやエゾユキウサギ、エゾリスをよく見かける。昨年どこかのゴルフ場でキタキツネがショートホールのガードバンカーに巣を作っていたことがあった。かなり大きな穴を開けていたので、ボールが入っていかなければよいなあ、ここを回るゴルファーはみんなそう思いながら、ボールを打つことに...

コラム21 『生成AI?オヤジにも使えました』

  [酪総研コラム21 ー2025年5月掲載]              『生成AI?オヤジにも使えました 』   話題の“生成 AI” に、ついにオヤジも手を出す 最近、生成 AI が大きな注目を集めている。酪農に関わる仕事を長年してきたオヤジ世代の私も、ついにこの技術に手を出してみることにした。 ちょっと前までは「 IT だ」「 IoT だ」と言っていたのに、気がつけば「生成 AI 」の時代になっていた。技術の進歩は本当に早いと、改めて思う。 生成 AI とは、機械学習アルゴリズムを用いてテキストや画像を自動生成する技術のことで、 ChatGPT (※1)や Midjourney (※2)などが代表的な例だ。これらのツールは、情報収集や文章作成、創作などを効率的に行うために使われ、さまざまな分野で活用が広がっている。   使ってみてわかった!便利すぎる AI の力 社内で提供されている生成 AI を実際に使ってみると、その便利さに驚かされた。とにかく、情報の引き出しが早い。質問すれば即答、関連情報もどんどん提案してくれる。 しかも、文章作成や資料作りの時間を大幅に短縮できる。研究のサポートやアイデア出しにも強く、日々の業務を効率よく進められるのは非常にありがたい。   でも、便利すぎるがゆえの落とし穴も… ただし、生成 AI には落とし穴もある。たとえば、生成された内容が必ずしも正しいとは限らない。情報の正確性や出典を確認する手間は、どうしても必要だ。また、あまり頼りすぎると自分の考える力や創造力が鈍ってしまう危険性もある。 「使いこなす」意識を持って付き合わないと、便利さに呑まれてしまうこともあり得る。   人の仕事が AI に奪われる? その前に考えたいこと 生成 AI の進化により、人間の仕事が機械に置き換えられるのではないかという不安の声もある。確かに、単純作業や一部の創造的な仕事は影響を受けやすい。また、プライバシーやセキュリティといった課題も指摘されており、安心して利用するためには法律や倫理面での整備が不可欠だ。   AI が生み出した “ 酪農賛歌 ”―― 歌詞はお見せできませんが、その実力は本物です 「 AI で歌なん...

コラム20 『アンコンシャスバイアスについて考えてみる』

  [酪総研コラム20 ー2025年4月掲載] 『アンコンシャスバイアスについて考えてみる 』 先日、自宅でテレビを見ていると、ある CM が流れた。映像には人間の声が一切なく、顔も映らない。テレビ画面には、漫画のコメント風の吹き出しに「(ディナー会計時)支払いはカードで」「ピンク色のぬいぐるみが欲しい」と言った「文字」のみが表示される。そして最後に「聞こえてきたのは男性の声ですか?女性の声ですか?」「無意識の偏見に気付くことからはじめませんか?」というメッセージが流れる。これはある CM の「聞こえてきた声」という作品だ。 私は差別や偏見には敏感な方だと思っていたが、この CM を見た瞬間、無意識のうちに「支払いは男性の声」「ピンクのぬいぐるみは女性の声」と想像していたことに気づき、ハッとさせられた。頭の中で「そういうものだろう」と自然にイメージしてしまっていたのだ。最近、社内の研修でも「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」について学ぶ機会が増えたが、改めて調べてみると、内閣府男女共同参画局の資料( ※ 1)にはこうある。「『自分自身は気づいていない、ものの見方やとらえ方のゆがみや偏り』を指し、自分自身では意識しづらく、ゆがみや偏りがあるとは認識していないため、『無意識の偏見』と呼ばれる。」私自身も例に漏れず、無意識の偏見を持っていたことを思い知らされた出来事だった。 ここで少し話を変えて、「酪農」に対する一般的なイメージについて考えてみたい。おそらく、多くの人は「広々とした放牧地で牛がのびのびと過ごし、青々とした牧草を食べている」といった光景を思い浮かべるのではないだろうか。しかし、酪農王国・北海道においても、多くの乳牛は基本的に牛舎内で過ごし、 1 日 2 回以上、トウモロコシや大豆などの穀物を配合した「濃厚飼料」を与えられているのが現実だ。さらに、令和 4 年度の日本の飼料自給率は全体で約 26 %。このうち粗飼料(牧草など)は 78 %の自給率を確保しているものの、エネルギー源となる濃厚飼料の自給率はわずか 13 %( ※ 2)。つまり、乳牛の主要な飼料のおよそ 8 割は海外に依存しているのだ。 この事実は酪農業界では常識かもしれないが、一般消費者にはあまり知られていない。つまり、「国産の牛乳・乳製品」は国産の飼料だけでできていると...

コラム19 『日本酪農発祥の地で心に刻まれた事』

  [酪総研コラム19ー2025年3月掲載] 『日本酪農発祥の地で心に刻まれた事 』   日本酪農発祥の地は安房国嶺岡牧(まき)、現在の千葉県南房総市と言われている。八代将軍徳川吉宗が享保13年(1728年)にインド産といわれる白牛を3頭飼育し、これを基に頭数を増やしていったそうである。吉宗公が牛乳を使って乳製品を作ったことが日本の酪農の始まりとされており、現在は「千葉県酪農のさと」として整備され白牛も数頭飼われ ている。  ご存じのとおり千葉県は全国有数の酪農県として発展してきており、生乳生産量は年間 18 万トンを超え、全国ランクは 6 位を誇る( 2023 年度)。 そんな千葉県で今から 7 ~ 8 年前に出会った酪農家さんの思い出がある。大ベテランで御年 70 歳は超えているとお見受けした。後継者は居ないが 15 頭ほどの牛を飼い、毎日搾乳を行っていたが膝の調子が良くないようであった。  作業がいよいよ辛くなってきた彼は膝に人工関節を入れる決心をした。手術をして入院しなければならないため、年齢的にも牛を飼うのを諦めるのかと思ったが、彼は違った。一旦牛を手放してしまうと、二度と酪農が出来なくなると考え、地域の仲間に牛を預けて手術を受ける準備をした。乳代をそっくり預託代として引き受けてくれた仲間に渡すと彼は言っていた。若いころから酪農を続けてきて大変な苦労があったと思うが計り知れない喜びもあったのだと思う。まだまだ諦めず牛を飼いたいという気骨を感じた。 日本酪農発祥の地で出会った老酪農家の牛を愛する想いは今でも忘れられないほど心に刻みつけられた。そんな出会いであった。その後、異動で関東を離れたので残念ながら彼とは会えていないが、膝を治して酪農を再開したと思われる。